不動産担保ローンの返済が止まったとき、担保に入れた不動産はどうなるのか。答えは民事執行法に書かれています。第180条は、不動産担保権の実行の方法として担保不動産競売と担保不動産収益執行の2つを挙げ、債権者が選択したものによって行うと定めています。売れる金額にも下限があり、第60条は買受けの申出の額を売却基準価額からその10分の2を控除した額以上としています。条文で流れを確認します(2026年9月26日確認)。
先に結論
- 民事執行法180条により、不動産担保権の実行は担保不動産競売か担保不動産収益執行のどちらかで、債権者が選択します。
- 担保不動産収益執行は、不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法です。物件を売らずに家賃などから回収する形になります。
- 競売の価格は、執行裁判所が評価人の評価に基づいて売却基準価額を定めます(60条1項)。
- 買受けの申出は、売却基準価額から10分の2を控除した「買受可能価額」以上でなければなりません(60条3項)。つまり基準価額の8割が下限です。
- 代金を納付した買受人は、引渡命令を申し立てられます(83条1項)。申立ては代金納付の日から6か月以内です(同条2項)。
- 抵当建物使用者が占有していた建物の買受人については、この期間が9か月になります。
実行の方法は2つ。選ぶのは債権者
まず、担保権の実行にどんな方法があるかを条文で確認します。

民事執行法 第百八十条(不動産担保権の実行の方法)
不動産を目的とする担保権の実行は、次に掲げる方法であつて債権者が選択したものにより行う。
一 担保不動産競売(競売による不動産担保権の実行をいう。)の方法
二 担保不動産収益執行(不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による不動産担保権の実行をいう。)の方法
| 方法 | 条文の定義 | 不動産の所有権 |
|---|---|---|
| 担保不動産競売 | 競売による不動産担保権の実行 | 売却されて買受人に移る |
| 担保不動産収益執行 | 不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による実行 | 売却はされず、収益から回収される |
「債権者が選択したものにより行う」と書かれている点が重要です。どちらの方法を取るかは、借りた側が選べません。賃貸中の物件であれば、収益執行によって家賃が弁済に充てられる形もあり得ます。賃料への物上代位については家賃への物上代位をまとめた記事で扱っています。
競売の価格には下限がある
競売にかけられた場合、いくらで売られるのか。価格の決まり方は60条にあります。

図1 価格が決まるまで
評価人が評価する
執行裁判所は、評価人の評価に基づいて価額を定めます。
売却基準価額を定める
不動産の売却の額の基準となるべき価額です。執行裁判所は必要があると認めるときは変更できます(60条2項)。
買受可能価額が決まる
売却基準価額からその10分の2に相当する額を控除した価額。買受けの申出はこれ以上でなければなりません。
| 売却基準価額 | 控除される額(10分の2) | 買受可能価額 |
|---|---|---|
| 1,000万円 | 200万円 | 800万円 |
| 2,000万円 | 400万円 | 1,600万円 |
| 3,000万円 | 600万円 | 2,400万円 |
| 5,000万円 | 1,000万円 | 4,000万円 |
金額は条文の「10分の2」を当てはめた計算です。売却基準価額そのものが市場の相場と同じとはかぎらないうえ、そこからさらに2割低い金額でも買受けの申出ができます。任意売却と比べて回収額が下がりやすいと言われる理由の一つがここにあります。
売却基準価額は評価人の評価に基づいて執行裁判所が定めるもので、査定会社の査定額や売り出し価格とは別のものです。条文にも「必要があると認めるときは、売却基準価額を変更することができる」とあり、固定された数値ではありません。
売れたあと、いつ出ていくことになるのか
買受人が代金を納付したあとの手続きが83条の引渡命令です。
民事執行法 第八十三条(引渡命令)
執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者又は不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる。ただし、事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、この限りでない。
2 買受人は、代金を納付した日から六月(買受けの時に民法第三百九十五条第一項に規定する抵当建物使用者が占有していた建物の買受人にあつては、九月)を経過したときは、前項の申立てをすることができない。
| 項目 | 条文の定め |
|---|---|
| 申立てができる人 | 代金を納付した買受人 |
| 対象 | 債務者または不動産の占有者 |
| 例外 | 事件の記録上、買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者には命じられない |
| 申立ての期限 | 代金を納付した日から6か月 |
| 期限の例外 | 買受けの時に民法395条1項の抵当建物使用者が占有していた建物の買受人は9か月 |
| 債務者以外の占有者への決定 | 執行裁判所はその者を審尋しなければならない(3項) |
| 不服申立て | 執行抗告をすることができる(4項)。決定は確定しなければ効力を生じない(5項) |
第3項の審尋と、第5項の「確定しなければその効力を生じない」という定めがあるため、代金納付の翌日にいきなり退去させられるという構造ではありません。ただし、期限は代金納付の日から6か月と明確に区切られています。
返済が難しくなったときにできること
条文から読み取れる4つの確認点
- 実行方法は債権者が選ぶ。競売になるか収益執行になるかを借りた側が決めることはできません。
- 競売は基準価額の8割でも成立しうる。買受可能価額は売却基準価額の10分の8です。
- 占有の権原があるかどうかで扱いが変わる。買受人に対抗できる権原による占有には引渡命令が及びません。
- 引渡命令には6か月(一定の場合は9か月)の期限がある。買受人の側にも時間の制約があります。
返済が滞りはじめた段階では、まだ実行前です。抵当権がどこまで及ぶかは民法370条の付加一体物をまとめた記事、抵当権が消えるのはいつかは消滅時効と被担保債権の範囲の記事で扱っています。
この記事で確認できなかったこと
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 競売開始から売却までの実際の期間 | 条文には期間の定めがなく、裁判所や事件ごとに異なる |
| 売却基準価額の算定方法 | 60条は「評価人の評価に基づいて」とするのみ |
| 任意売却との比較 | 任意売却は法律上の手続きではないため、この記事では扱っていない |
| 競売にかかる予納金・手数料 | この記事では扱っていない |
| 売却後に残った債務の扱い | この記事では扱っていない |
まとめ
不動産担保ローンの返済ができなくなると、債権者は担保不動産競売か担保不動産収益執行のどちらかを選んで担保権を実行します。選ぶのは債権者で、借りた側に選択権はありません。
競売になった場合、執行裁判所が評価人の評価に基づいて売却基準価額を定め、買受けの申出はそこから10分の2を控除した買受可能価額以上で行われます。基準価額の8割が下限という構造です。
代金が納付されると、買受人は引渡命令を申し立てられます。期限は代金納付の日から6か月、一定の場合は9か月です。条文は改正されることがあります。実際の場面では、e-Gov法令検索で現行の条文を確認したうえで、弁護士や司法書士にご相談ください。この記事は条文の内容を整理したもので、個別の事案についての法的助言ではありません。
この記事で参照した情報
- e-Gov法令検索「民事執行法」(昭和五十四年法律第四号)第180条https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004(不動産担保権の実行の方法。担保不動産競売と担保不動産収益執行、債権者が選択すること)
- e-Gov法令検索「民事執行法」第60条・第83条https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004(売却基準価額の決定、買受可能価額が売却基準価額から10分の2を控除した額であること、引渡命令の申立人・対象・例外・期限・審尋・執行抗告)
2026年9月26日にe-Gov法令検索で条文を確認しました。条文の要旨は当サイトによる整理で、公式の解説ではありません。売却基準価額と買受可能価額の金額例は条文の割合を当てはめた当サイトの計算で、実際の事件の金額ではありません。法令は改正されることがあります。個別の判断は専門家にご確認ください。










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