自分名義でない不動産でも、担保に入れること自体はできます。借りる人と担保を出す人が違う形を物上保証といい、民法もこれを前提にした条文を置いています。
ただし、名義人の同意があればよい、という単純な話ではありません。名義人は契約の当事者として抵当権設定契約に加わります。実印と印鑑証明書を出し、内容を理解したうえで署名する立場です。
民法372条は351条を抵当権に準用しており、他人の債務を担保するために抵当権を設定した人は、債務を弁済したり実行で所有権を失ったりしたときに保証債務に関する規定に従って債務者に求償できます。ただし、求償できることと、実際に回収できることは別です。
共有の不動産、成年被後見人の居宅は、さらに条件が加わります。共有物に変更を加えるには他の共有者の同意が要り(251条1項)、成年被後見人が住んでいる建物やその敷地に抵当権を設定するには家庭裁判所の許可が必要です(859条の3)。
借りる人と担保を出す人が違う形を物上保証という
不動産担保ローンでは、借入れをする人と担保不動産の名義人が同じとは限りません。親名義の自宅を担保に子が借りる、法人の借入れに社長個人の不動産を担保として差し出す、といった形です。
このとき担保を出す人を物上保証人と呼びます。連帯保証人とは立場が違います。
| 項目 | 物上保証人 | 連帯保証人 |
|---|---|---|
| 差し出すもの | 特定の不動産 | 自分の財産全体 |
| 返済の請求を受けるか | 受けない(債務を負っていない) | 受ける |
| 損失の上限 | 担保にした不動産の価値まで | 債務の全額 |
| 給与や他の財産の差押え | この立場だけでは及ばない | 及ぶ |
| 求償 | 弁済または所有権喪失のときに債務者へ(372条・351条) | 弁済したときに債務者へ(459条など) |
民法351条は質権について「他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。」と定め、372条が「第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。」としています。抵当権の物上保証人にも同じ求償の仕組みが用意されているという構造です。
求償権があることは、お金が戻ってくることの保証ではありません。求償の相手は債務者本人です。債務者が返せなくなったから担保が実行されたわけですから、そこから回収できる見込みは高くありません。親の不動産を担保に入れるということは、最悪の場合その不動産を失うということです。
名義人は「同意する人」ではなく「契約する人」
実務でずれやすいのがここです。名義人の役割は、口頭で同意することではありません。抵当権設定契約の当事者として署名し、登記の申請にも関わります。
図1 物上保証で名義人が関わる場面
担保提供者として名前を出す。金融機関によっては面談を求められる
担保不動産の評価に加えて、所有関係と権利関係が確認される
抵当権設定契約書に名義人が署名・押印する。実印と印鑑証明書が要る
名義人が登記義務者として登記申請に関わる。登記識別情報(権利証)も必要
返済が滞れば、名義人の不動産が競売や任意売却の対象になる
言い換えると、名義人が高齢で判断能力に不安があったり、遠方に住んでいて書類を用意できなかったりする場合、同意を得ていても手続が進みません。申込み前に、名義人本人が契約に出られる状態かを確かめてください。
共有の不動産は「どこまで担保に入れるか」で要件が変わる
親子や兄弟で持分を分けている不動産は、扱いが一段複雑になります。民法251条1項はこう定めています。
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。(民法251条1項)

不動産全体に抵当権を設定するなら、共有者全員が物上保証人として契約に加わります。1人でも欠ければ、その不動産全部を担保にすることはできません。
図2 共有不動産を担保に入れるときの選択肢
- 不動産全部に設定する 共有者全員が契約当事者になる。評価額は不動産全体で見られる
- 自分の持分だけに設定する 他の共有者を巻き込まずに済むが、持分だけでは換価しにくく、金融機関が応じないことがある
- 共有を解消してから設定する 持分の買取りや共有物分割で単独名義にする。時間と費用がかかる
- 所在の分からない共有者がいる場合 251条2項により、裁判所が他の共有者の同意で変更を加えられる旨の裁判をする制度がある
共有者が行方不明のときに裁判所の手続で先へ進める仕組みは、251条2項と252条2項に置かれています。ただし裁判所の判断を経るため、通常より時間がかかります。共有持分と担保の関係は第二抵当権(2番抵当)の記事で触れた順位の話とも絡むので、あわせて読むと全体像がつかめます。
名義人が成年被後見人なら家庭裁判所の許可が要る
親の不動産を担保にという話では、親が認知症などで判断能力を失っているケースが少なくありません。この場合、成年後見人が本人に代わって手続をしますが、居住用不動産については特別の制限があります。
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。(民法859条の3)

条文が「抵当権の設定」を名指ししている点が重要です。売却だけでなく、担保に入れる行為そのものが許可の対象です。居住用かどうかで扱いが分かれるので、現に住んでいる家か、入院・入所していても生活の本拠として戻る予定があるかといった事情が判断材料になります。
判断能力が既に失われている人に、その場で署名させて契約を成立させることはできません。後見の申立てから許可までには相応の時間がかかります。「親の不動産を担保に、今月中に資金を」という進め方は、この類型では成り立ちません。
申込み前に確かめる順番
他人名義の不動産を担保にする話は、金融機関に相談する前の段階で決着がつくことがよくあります。次の順番で確かめると、無駄な往復が減ります。
| 名義の形 | 誰が契約に加わるか | 追加で必要になるもの |
|---|---|---|
| 親・兄弟・祖父母の単独名義 | 名義人が物上保証人として | 名義人の実印・印鑑証明書・登記識別情報 |
| 共有(全部に設定) | 共有者全員 | 全員分の実印・印鑑証明書 |
| 共有(自分の持分だけ) | 本人のみ | 金融機関が持分担保に応じるかの確認 |
| 名義人が成年被後見人(居住用) | 成年後見人が代理 | 家庭裁判所の許可(859条の3) |
| 相続登記が済んでいない | — | 先に相続登記を済ませる必要がある |
最後の行も実務では頻出です。登記簿の名義が亡くなった人のままだと、その状態では抵当権を設定できません。登記簿の現況は先に取得して確かめておくのが確実です。取得の手数料と見るべき箇所は現地調査で何を見るのかにまとめました。担保にした不動産が賃貸中の場合の扱いは民法395条の引渡し猶予で整理しています。
よくある質問
親の同意があれば、親が契約に来なくても大丈夫ですか
いいえ。名義人は抵当権設定契約の当事者です。契約書への署名・押印と、実印・印鑑証明書・登記識別情報の提出が必要になります。口頭の同意だけでは手続が進みません。
物上保証人にも返済の請求が来ますか
物上保証人は債務を負っていないため、この立場だけで返済を請求されることはありません。責任は担保に入れた不動産に限られます。ただし、あわせて連帯保証人にもなっている場合は別です。
担保が実行されたら、名義人は誰に請求できますか
民法372条が準用する351条により、債務を弁済したときや抵当権の実行で所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従って債務者に求償できます。相手は債務者本人で、金融機関ではありません。
共有持分だけを担保にできますか
法律上は自分の持分に抵当権を設定できます。ただし持分だけでは換価が難しいため、金融機関が受け付けないことがあります。不動産全部に設定するなら、251条1項により他の共有者全員の同意が必要です。
認知症の親の家を担保にしたいのですが
成年後見が開始している場合、居住用不動産への抵当権設定は859条の3により家庭裁判所の許可が必要です。後見が開始していない場合は、まず後見の申立てから始まります。いずれも時間がかかるため、急ぎの資金調達の手段にはなりません。
参照した一次情報
- e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(251条の共有物の変更と2項の裁判、252条の共有物の管理、351条の物上保証人の求償権、372条の準用、859条の3の居住用不動産の処分についての許可。令和8年6月24日施行版/2026年9月27日確認)










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