先に要点
- 民法第251条第1項が他の共有者の同意を求めているのは、共有物に「変更」を加えるときである。条文は括弧書きで「その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く」としている。
- 共有物全体に抵当権を設定するなら、共有者の全員が設定者として契約に加わることになる。1人でも欠ければ全体には設定できない。
- 管理に関する事項は第252条第1項により持分の価格に従った過半数で決する。変更は全員、管理は過半数、保存行為は各共有者が単独(同条第5項)という三層になっている。
- 共有物は第256条第1項によりいつでも分割を請求できる。不分割の特約は5年を超えられず、更新しても更新の時から5年までである。
- 協議が調わなければ第258条で裁判所に請求でき、現物分割・賠償分割のほか、競売を命じられることがある。担保評価が伸びにくい理由はここにある。
親から相続した家、夫婦で買ったマンション、兄弟で持っている土地。共有名義の不動産は珍しくありませんが、いざ担保に入れようとすると話が止まります。何が障害になるのかは、民法の共有の規定を順に読むと見えてきます。ここでは条文だけを根拠に、持分だけを担保にする場合と全体を担保にする場合で何が変わるのかを整理します。
同意が要るのは「変更」のとき。条文の文言を確かめる
まず第251条です。2023年施行の改正でこの条文は書き換えられており、現行の文言は次のとおりです。

条文が対象にしているのは「共有物に変更を加える」ことです。自分が持っている持分そのものをどうするかについては、ここでは触れていません。民法は共有者がそれぞれ持分という権利を持つ構成を取っており、第249条第1項も「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる」として、持分を各自の権利として扱っています。
| 行為 | 必要な同意 | 条文 |
|---|---|---|
| 共有物に変更を加える | 他の共有者の全員の同意 | 251条1項 |
| 形状・効用の著しい変更を伴わない変更 | 251条1項の括弧書きで対象外 | 251条1項 |
| 共有物の管理に関する事項 | 持分の価格に従った過半数 | 252条1項 |
| 保存行為 | 各共有者が単独でできる | 252条5項 |
| 共有物全体への抵当権設定 | 共有者の全員が設定者になる | 条文に直接の定めはなく、全員の権利に及ぶことによる |
表の時点:2026年10月12日。e-Gov法令検索で取得した民法第249条・第251条・第252条の条文から整理しました(法令改正ID 129AC0000000089_20260624_508AC0000000045)。最終行は条文の文言そのものではなく、全員の持分に効力が及ぶことからの帰結です。
整理すると、障害になるのは「共有物全体を担保に入れたい」という場合です。全員の持分に抵当権の効力を及ぼすには、全員が設定契約の当事者にならなければなりません。相続で共有者が増えているケースでは、ここで止まります。
自分の持分だけなら、条文の文言には引っかからない
では持分だけならどうか。第251条第1項が同意を求めているのは「共有物に変更を加える」ことであり、自分の持分に担保権を設定することはこの文言に当たりません。したがって、他の共有者の同意がないことを理由に設定が妨げられるわけではありません。
ただし、法律上できることと、金融機関が応じることは別です。持分だけに抵当権が付いた状態を想像すると、理由が分かります。
図:持分だけの担保が敬遠される理由
売りにくい
競売になっても、他人と共有している状態をそのまま引き継ぐことになるため、買い手が限られます。
使えるとは限らない
第249条第1項は持分に応じた使用を認めますが、実際に誰が住んでいるかは別の問題です。同条第2項は、自己の持分を超えて使用する共有者に対価の償還義務を課しています。
いつでも分割を請求される
第256条第1項により、各共有者はいつでも分割を請求できます。担保の対象が形を変える可能性が常にあります。
管理の決定に加われない場合がある
第252条第1項は持分の価格に従った過半数で決するとしているため、持分が小さいと管理の決定に影響を与えられません。
評価額の考え方そのものは不動産担保ローンの担保評価額はなぜ金融機関で違う?鑑定の3方式と、路線価80%・固定資産税評価額7割の位置づけにまとめています。共有持分はその手前で、そもそも引き受けるかどうかの判断になります。
「いつでも分割を請求できる」が効いている
共有の不安定さを決めているのが第256条です。条文は次のとおりで、不分割の特約にも期間の上限があります。

協議が調わないときは第258条第1項で裁判所に請求できます。裁判所が命じられる方法は同条第2項で2つ示されており、現物を分割する方法と、共有者に債務を負担させて他の共有者の持分の全部または一部を取得させる方法です。これらで分割できないとき、または分割によって価格を著しく減少させるおそれがあるときは、同条第3項により競売を命じることができます。
| 段階 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 請求 | 各共有者はいつでも分割を請求できる | 256条1項 |
| 不分割の特約 | 5年を超えない期間で可能。更新は更新の時から5年まで | 256条1項ただし書・2項 |
| 裁判への移行 | 協議が調わない、または協議ができないとき | 258条1項 |
| 裁判所が命じる方法 | 現物分割、または債務を負担させて持分を取得させる方法 | 258条2項 |
| 最後の手段 | 上記で分割できない、価格を著しく減少させるおそれがあるときは競売 | 258条3項 |
表の時点:2026年10月12日。民法第256条・第258条の条文によります。
担保として見る側からすると、5年を超えて分割を止める方法が条文上ないという点が重い制約になります。長期の返済期間を設定しても、その間に分割が請求されうるためです。
共有者と連絡が取れないときの2つの裁判手続
相続が重なって共有者の居所が分からない、という状態は実際に起きます。2023年施行の改正で、この場合の手続が条文に入りました。
図:所在等が分からない共有者がいるときに使える条文
変更について(251条2項)
共有者が他の共有者を知ることができず、またはその所在を知ることができないときは、裁判所は共有者の請求により、その他の共有者以外の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができます。
管理について(252条2項1号)
同じく所在等が分からないときは、裁判所はその共有者以外の持分の価格に従った過半数で管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができます。
賛否を明らかにしないとき(252条2項2号)
相当の期間を定めて賛否を明らかにすべき旨を催告し、その期間内に明らかにしないときも、同じ裁判を求められます。
使用している共有者がいるとき(252条3項)
決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければなりません。
これらはいずれも裁判所の手続であり、申立てから決定まで時間がかかります。借入れの実行日を先に決めてから着手すると間に合いません。共有者の所在が不明な場合は、担保の相談よりも先に手続の見通しを立ててください。登記名義の住所が古いままという問題も重なります。住所変更登記は住所変更の登記は2026年4月から義務|不動産登記法76条の5の2年以内と、5万円以下の過料のとおり義務化されています。
相談の前にそろえておくもの
共有の不動産で借りられるかどうかは、条文より手前の事実確認で決まります。順番は次のとおりです。
図:共有不動産で相談するときの準備
登記事項証明書で共有者と持分の割合を確認する
甲区に共有者の氏名と持分が記載されています。相続が未了なら、まず誰が共有者なのかの確定から始まります。
全員が担保提供に同意できるかを先に確かめる
共有物全体を担保にするなら全員が設定者になります。同意が得られないなら、持分だけの担保か、別の調達手段を検討することになります。
不分割の特約があるかを契約書で確認する
第256条第1項ただし書の特約があると、5年の範囲で分割請求が止まっています。更新の有無も含めて確認してください。
持分だけで進めるなら、条件の提示を複数から取る
持分担保を扱うかどうかは金融機関ごとに違います。扱わない先に時間を使わないよう、早い段階で可否を聞くほうが効率的です。
共有ではない不動産で借りる場合の全体像は不動産の評価額は4つある|路線価8割・固定資産税評価7割の関係と、担保余力の出し方を参照してください。土地だけを担保に入れる場合の論点は土地だけを担保に入れるとどうなる?民法388条の法定地上権と、担保評価が下がる理由にあります。
よくある質問
共有者の同意なしに自分の持分を担保に入れられますか
民法第251条第1項が同意を求めているのは「共有物に変更を加える」ときで、自分の持分に担保権を設定することはこの文言に当たりません。ただし、持分だけを担保として受け入れるかどうかは金融機関の判断であり、扱わない先もあります。
共有物全体を担保にするには何が必要ですか
共有者の全員が設定者として契約に加わることになります。1人でも同意しない共有者がいれば、その人の持分に抵当権の効力を及ぼすことはできません。
共有者の1人と連絡が取れません
民法第251条第2項と第252条第2項に、所在等が分からない共有者がいる場合の裁判手続があります。裁判所に請求して、その共有者以外で変更または管理を決められる旨の裁判を得る形です。時間がかかるため、早めに着手してください。
分割しない約束をしておけば安心ですか
第256条第1項ただし書で5年を超えない期間の不分割特約が認められ、第2項で更新もできますが、更新の時から5年を超えることはできません。5年を超えて分割請求を止める方法は条文上ありません。
裁判になると必ず競売ですか
いいえ。第258条第2項は、現物分割と、共有者に債務を負担させて他の共有者の持分を取得させる方法の2つを挙げています。競売は、これらで分割できないとき、または分割によって価格を著しく減少させるおそれがあるときの手段として第3項に置かれています。
この記事で参照した条文
- e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」:第249条(共有物の使用)、第251条(共有物の変更)、第252条(共有物の管理・保存行為・所在等不明共有者の裁判)、第256条(共有物の分割請求と5年の特約)、第258条(裁判による共有物の分割と競売)。条文の文言は、2026年10月12日にe-Gov法令検索のAPIから取り出した現行版(法令改正ID 129AC0000000089_20260624_508AC0000000045)に拠っています










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