借地の上に建っている自宅や店舗を担保に資金を借りられるか。この問いは、「借地権」と一口に言われているものが法律上は2種類あることを知らないと答えが出ません。地上権なら抵当権を直接設定できますが、賃借権には設定できないからです。条文と、裁判所が公表している借地非訟事件の案内から、どこで話が止まるのかを整理します。
民法369条2項が抵当権の目的にできるとしているのは地上権と永小作権です。賃借権は挙がっていません。借地権が土地賃貸借契約によるものなら、抵当に入るのは土地の権利ではなく建物です。
建物を譲り渡すと土地の賃借権も移るため、民法612条により地主の承諾が要ります。承諾が得られないときは、借地借家法19条1項で裁判所が承諾に代わる許可を与えられます。
競売で建物を買った人も同じ壁に当たります。借地借家法20条1項に同じ仕組みがあり、申立ては建物の代金を支払った後2か月以内に限られます。地主には介入権(19条3項・20条2項)があります。
「借地権」は2種類ある。抵当権を直接設定できるのは地上権だけ
東京地方裁判所の借地非訟事件の案内は、土地を借りて利用する契約を3つに分けています。土地賃貸借契約(地代を支払うもの)、土地使用貸借契約(無料で使わせてもらうもの)、地上権設定契約(地上権という物権を設定するもの)です。そのうえで、借地非訟事件が扱うのは建物の所有を目的とする土地賃貸借契約または地上権設定契約だと書かれています。
この区別が、担保の話で決定的になります。抵当権の条文を見ます。
抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
民法 第369条(e-Gov法令検索)
2項が挙げているのは地上権と永小作権です。賃借権は入っていません。条文の作りとして、土地賃貸借による借地権そのものに抵当権を設定する道は用意されていない、ということです。抵当権の基本的な仕組みは抵当権とは何かを民法369条で整理した記事で扱っています。
借地権の種類と、担保に入れられるもの
民法369条2項により、地上権そのものを抵当権の目的にできます。実務で地上権の借地は多くありませんが、登記簿の乙区を見れば判別できます。
民法369条2項に挙がっていないため、賃借権そのものに抵当権は設定できません。担保になるのは借地上の建物で、借地権は建物に付いて動く形になります。
地代を支払わないものです。東京地裁の案内でも、借地非訟事件が扱う借地権には含まれないと読める書き方がされています。借地借家法の保護も及びません。
自分の借地がどれに当たるかは、まず登記事項証明書で確かめます。地上権なら土地の登記簿に地上権の登記が入っています。賃借権の場合、登記されていないことのほうが多く、そのかわり借地借家法10条により建物の登記があれば第三者に対抗できます。
賃借権の借地では、担保になるのは建物。地主の承諾が要る理由
賃借権の借地で建物に抵当権を設定した場合、返済が滞ると建物が競売にかかります。買受人は建物を手に入れますが、建物だけでは土地を使えません。土地の賃借権も一緒に移る必要があります。
ここで民法612条が効いてきます。
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
民法 第612条(e-Gov法令検索)
つまり地主が「うん」と言わなければ、賃借権は動きません。動かないまま建物だけ競落されると、買受人は土地を使う権原を持たない状態になり、2項により契約を解除されるおそれもあります。この状態の建物に高い値は付きません。
貸し手の側から見ると、担保として当てにできるかどうかが地主の判断に左右されるということです。だから実務では、融資の条件として地主の承諾書を求めることになります。返済できなくなったときに何が起きるかを知っておくと、この条件の意味が見えます。
承諾が得られないとき、裁判所が承諾に代わる許可を出せる
地主が承諾しない場合に手がないわけではありません。借地借家法19条1項が、裁判所の許可という道を用意しています。
借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。
借地借家法 第19条第1項(e-Gov法令検索)
条件は「借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず」です。裁判所は19条2項により、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、譲渡または転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮して判断します。同じ条文の後段には、利益の衡平を図るため必要があるときは借地条件の変更を命じ、または許可を財産上の給付に係らしめることができるとあります。いわゆる承諾料がここに当たります。

競売で建物を買った人にも同じ道がある。ただし2か月の期限つき
抵当権が実行された後の場面を定めているのが借地借家法20条です。
建物が競売にかかってからの順番
- 建物が競売または公売にかけられる:抵当権の実行です。買受人は建物の所有権を取得します。
- 土地の賃借権の譲受けに地主の承諾が要る:民法612条の問題です。承諾が得られれば、ここで終わります。
- 承諾が得られなければ、買受人が裁判所へ申し立てる:借地借家法20条1項により、地主に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾しないときは、裁判所が承諾に代わる許可を与えられます。
- 申立ては建物の代金を支払った後2か月以内:借地借家法20条3項が期限を定めています。過ぎると申立てができません。
- 地主の介入権が行使されることがある:19条3項・20条2項により、地主は裁判所が定めた期間内に、自ら建物と賃借権を買い受ける申立てができます。申立てがあれば、原則として裁判所が定めた価格で地主が買い受けます。
2か月という期限と介入権の存在は、競売で借地上の建物を買う側にとって織り込み済みの前提です。買い手が限られるぶん、担保としての評価も所有権の土地付き建物より低くなります。評価額の考え方は不動産の評価額が4つある理由を整理した記事で扱っています。
借地非訟の申立てにかかる費用
東京地方裁判所は、借地非訟事件の費用の算定方法も公表しています。

公表されている費用の内訳
申立手数料
土地の価格から算定
借地権が設定された土地の価格を基礎に算定し、固定資産税評価額のある土地はその価格を基準とします。収入印紙で納付します。
目的物の価格の出し方
固定資産評価額÷2
増改築許可申立事件以外の申立ての場合です。増改築許可申立事件は「固定資産評価額÷10×3÷2」とされています。借地が土地の一部なら面積比を掛けます。
郵便切手の予納
6,000円
相手方1名の場合です。相手方が1名増えるごとに500円×2枚(1,000円)を追加すると案内されています。
手数料算定のため、申立時には借地の土地固定資産評価証明書の原本を持参するよう求められています。手続きの代理を依頼する場合、代理人は弁護士に限られます。
東京地裁の案内には、手数料の計算間違いを避けるため収入印紙は申立書に貼らずに来庁すること、計算が難しい場合は購入せずに来庁すること(裁判所の建物内に郵便局があり当日購入できること)も書かれています。
また、事件の進行としては、申立書の提出、第1回審問期日、鑑定委員会への意見照会、鑑定委員会による現地調査、意見書の提出、最終審問期日、決定書の作成という流れが示されており、多くの事件は特段の事情がなければ概ね1年以内に終わっているとされています。
借りる側が先に確かめておくこと
申し込む前に手元で確定させる4点
- 地上権か賃借権か:登記事項証明書で確認します。地上権なら民法369条2項により権利そのものを抵当に入れられます。賃借権なら建物が担保です。
- 建物の登記があるか:借地借家法10条1項は、借地権の登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは第三者に対抗できるとしています。未登記の建物では、この対抗力が働きません。
- 借地権の残存期間:借地借家法3条は存続期間を30年とし、4条は更新後の期間を最初の更新で20年、それ以降は10年と定めています(いずれも契約でより長い期間を定めたときはその期間)。返済期間はこの枠の内側で考えることになります。
- 地主の承諾が取れる見込み:取れないなら、借地借家法19条の申立てという手続きが必要になります。時間と費用が別にかかる前提で、資金が必要な時期から逆算します。
| 項目 | 所有権の土地+建物 | 賃借権の借地+建物 |
|---|---|---|
| 抵当権を設定する対象 | 土地と建物の両方 | 建物のみ(賃借権は民法369条2項に挙がっていない) |
| 譲渡に第三者の同意が要るか | 不要 | 民法612条により地主の承諾が必要 |
| 承諾が得られないとき | - | 借地借家法19条1項(譲渡の場面)、20条1項(競売・公売の場面)で裁判所の許可を求められる |
| 第三者が割り込む余地 | - | 地主の介入権(19条3項・20条2項)がある |
| 期間の制約 | なし | 借地権の存続期間(借地借家法3条・4条)の内側 |
よくある質問
- 借地権そのものを担保に入れられますか。
- 地上権なら可能です。民法369条2項は、地上権および永小作権も抵当権の目的とすることができると定めています。賃借権はこの条文に挙がっていないため、賃借権そのものに抵当権を設定することはできません。
- 賃借権の借地では、何が担保になりますか。
- 借地上の建物です。建物を譲り渡すと土地の賃借権も移ることになるため、民法612条により地主の承諾が必要になります。
- 地主が承諾してくれない場合はどうなりますか。
- 借地借家法19条1項により、地主に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾しないときは、借地権者の申立てで裁判所が承諾に代わる許可を与えることができます。裁判所は残存期間や従前の経過、譲渡を必要とする事情その他一切の事情を考慮します。
- 競売で借地上の建物を買った場合も同じですか。
- 同じ仕組みが借地借家法20条1項にあります。ただし申立ては建物の代金を支払った後2か月以内に限られます(20条3項)。
- 地主が自分で買い取ることはありますか。
- あります。借地借家法19条3項・20条2項が定める介入権です。裁判所が定めた期間内に地主が申立てをすると、原則として裁判所が定めた価格で地主が建物と賃借権を買い受けることになる、と東京地方裁判所が案内しています。
- 借地権の登記がありません。対抗できますか。
- 借地借家法10条1項は、借地権の登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは第三者に対抗できるとしています。建物の登記が鍵になります。
- 申立てにいくらかかりますか。
- 東京地方裁判所の案内では、申立手数料は借地権が設定された土地の価格を基礎に算定され、増改築許可申立事件以外は「固定資産評価額÷2」で目的物の価格を出すとされています。郵便切手は相手方1名の場合6,000円の予納です。
- 手続きにどれくらいかかりますか。
- 東京地方裁判所は、多くの事件は特段の事情がなければ概ね1年以内に終わっていると案内しています。急ぎの資金調達の手段としては見込みにくい時間軸です。
この記事のまとめ
抵当権の目的にできるのは、民法369条2項により地上権と永小作権です。賃借権は挙がっていないので、土地賃貸借の借地では建物が担保になります。
建物が動けば賃借権も動くため、民法612条で地主の承諾が要ります。承諾がなければ借地借家法19条1項、競売の場面なら20条1項で裁判所の許可を求める道があります。
20条の申立ては代金支払後2か月以内。地主には介入権があり、裁判所が定めた価格で買い受けられることがあります。
申し込む前に、地上権か賃借権か・建物の登記・残存期間・地主の承諾の見込みの4点を確定させておくと、話が早く進みます。
この記事で参照した一次情報
- e-Gov法令検索「民法」第369条・第612条https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索「借地借家法」第3条・第4条・第10条・第19条・第20条https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090
- 東京地方裁判所「第1 借地非訟とは」https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minji-section22/minji-section22-mokuji-1/index.html
- 東京地方裁判所「第3 費用」https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/minji-section22/minji-section22-3/index.html










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