担保に入れた不動産が競売にかけられると、その先は裁判所の手続きに乗ります。いくらから入札できるのか、いくら先に入れるのか、落札したらいつ代金を払うのか。いずれも民事執行法と裁判所の運用で決まっていて、当事者の交渉では動きません。この記事では、期間入札の流れを条文と裁判所の案内で追い、担保を出した側が見ておくべき節目を整理します。入札の下限額と保証金の扱いは、2026年9月29日にe-Gov法令検索とBIT不動産競売物件情報サイトで表示されていた内容です。
入札できる下限は買受可能価額です。民事執行法60条3項は、売却基準価額から10分の2に相当する額を控除した価額以上でなければならないと定めています。売却基準価額の8割が下限、という意味です。
入札する人は先に保証を入れます。東京地方裁判所の案内では、保証金は売却基準価額の10分の2以上で、事件ごとの金額は期間入札の公告の「買受申出保証額」で確認するとされています。
落札しても、その場で所有者にはなりません。売却許可決定が確定し、裁判所書記官の定める期限までに代金を納付した時に不動産を取得します(民事執行法78条1項・79条)。
代金を納めなければ売却許可決定は失効し、保証の返還を請求できません(同80条1項)。
入札から所有権が移るまでの流れ
担保不動産競売には、強制競売の規定が準用されます(民事執行法188条)。したがって、以下の条文は担保権の実行としての競売にもそのまま当てはまります。
期間入札の6つの節目
- 1. 売却基準価額が決まる
執行裁判所が評価人の評価に基づいて、売却の額の基準となるべき価額を定めます(60条1項)。必要があると認めるときは変更できます(同2項)。 - 2. 売却の方法と日時が公告される
不動産の売却は裁判所書記官の定める売却の方法で行われ、入札または競り売りのほか最高裁判所規則で定める方法があります(64条1項・2項)。裁判所書記官は、売却すべき不動産の表示、売却基準価額、売却の日時および場所を公告します(同5項)。 - 3. 保証を入れて入札する
買受けの申出をしようとする者は、執行裁判所が定める額および方法による保証を提供しなければなりません(66条)。債務者は買受けの申出をすることができません(68条)。 - 4. 開札を経て売却決定期日が開かれる
執行裁判所は売却決定期日を開き、売却の許可または不許可を言い渡します(69条)。 - 5. 売却許可決定が確定する
売却の許可または不許可の決定は、確定しなければその効力を生じません(74条5項)。決定に対しては、自己の権利が害されることを主張するときに限り執行抗告ができます(同1項)。 - 6. 代金を納付し、所有権が移る
売却許可決定が確定したとき、買受人は裁判所書記官の定める期限までに代金を納付します(78条1項)。買受人は代金を納付した時に不動産を取得します(79条)。

入札の下限は売却基準価額の8割
入札額の下限は、裁判所が決めた売却基準価額そのものではありません。条文は次のように書いています。「買受けの申出の額は、売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額(以下『買受可能価額』という。)以上でなければならない」(60条3項)。
| 売却基準価額 | 控除される額(10分の2) | 買受可能価額(入札の下限) |
|---|---|---|
| 1,000万円 | 200万円 | 800万円 |
| 1,500万円 | 300万円 | 1,200万円 |
| 2,000万円 | 400万円 | 1,600万円 |
| 3,000万円 | 600万円 | 2,400万円 |
| 5,000万円 | 1,000万円 | 4,000万円 |
担保を出した側から見ると、この8割が「最悪の場合いくらで売られうるか」の目安になります。市場での売却なら基準価額に近い金額で決まる可能性がありますが、競売では下限で決まることもあります。返済が難しくなった段階で任意売却を検討する理由の1つがここにあります。
買受可能価額は、手続きを進められるかどうかの判定にも使われます。63条は、優先債権がない場合に買受可能価額が手続費用の見込額を超えないとき、優先債権がある場合に買受可能価額が手続費用と優先債権の見込額の合計に満たないときは、差押債権者に通知し、一定の申出と保証の提供がなければ手続を取り消さなければならないと定めています。回収の見込みがない競売は止まる、という仕組みです。
保証金は売却基準価額の10分の2以上
民事執行法66条は「執行裁判所が定める額及び方法による保証」とだけ書いていて、金額そのものは条文に出てきません。実際の額は裁判所の運用で決まります。東京地方裁判所の取扱いを紹介しているBIT(不動産競売物件情報サイト)の案内では、次のように説明されています。

保証金は、金融機関で裁判所専用の「振込依頼書」を用いて裁判所の預金口座に振り込みます。金額は売却基準価額の10分の2以上で、事件ごとの金額は期間入札の公告に記載されている「買受申出保証額」で確認する、という案内です。振込後は、金融機関から受け取る「振込依頼書」2枚目の「保管金受入手続添付書」の右下欄に領収印が押されていることを確認するよう注意書きがあります。
入札に必要な書類。陳述書は追完できない
同じ案内には、提出する書類も列挙されています。入札書のほかに必要なのが、暴力団員等に該当しない旨の陳述書です。令和2年4月の民事執行法の改正により、入札書ごとに提出が必要になりました。
陳述書をめぐる3つの注意
出し忘れると無効
陳述書は入札時に提出がないと入札が無効になります。あとから追加して補うことはできません。
記載の不備も無効になりうる
記載に不備があった場合、入札が無効になることがあるとされています。提出後の訂正もできません。
「自己の計算」の欄に注意
資金を提供して入札させる者がいる場合はチェックが要ります。単に銀行等から資金を借り入れて入札する場合はこれに当たりません。誤ってチェックすると入札は無効になります。
添付書類は入札する人の属性で分かれます。法人なら入札書提出日の前3か月以内に発行された代表者事項証明書または登記事項証明書、個人なら同じく3か月以内のマイナンバーが記載されていない住民票等、代理人による入札なら代理委任状です。いったん提出した入札書は撤回も記載内容の変更もできません。
売却が許可されないことがある
最高価買受申出人になっても、売却が許可されるとは限りません。71条は売却不許可事由を8号にわたって列挙しています。
| 号 | 事由 |
|---|---|
| 1号 | 強制競売の手続の開始または続行をすべきでないこと |
| 2号 | 最高価買受申出人が不動産を買い受ける資格もしくは能力を有しないこと、またはその代理人がその権限を有しないこと |
| 3号 | 最高価買受申出人が、買い受ける資格を有しない者の計算において買受けの申出をした者であること |
| 4号 | 本人・代理人・自己の計算で申出をさせた者が、売却を妨げる行為をした者や、過去に代金を納付しなかった者などに当たること |
| 5号 | 最高価買受申出人または自己の計算において申出をさせた者が暴力団員等であること、法人でその役員のうちに暴力団員等に該当する者があるもの |
| 6号 | 75条1項の規定による売却の不許可の申出があること |
| 7号 | 売却基準価額もしくは一括売却の決定、物件明細書の作成、またはこれらの手続に重大な誤りがあること |
| 8号 | 売却の手続に重大な誤りがあること |
6号にある75条は、天災その他自己の責めに帰することができない事由で不動産が損傷した場合の救済です。売却許可決定前であれば売却の不許可の申出を、決定後であれば代金を納付する時までに決定の取消しの申立てをすることができます。ただし、損傷が軽微であるときは除かれます。
物件の状態を入札前に確かめる材料が、いわゆる3点セットです。何が書かれているかは競売の3点セットとは?で条文から整理しています。
代金を納めないと保証は戻らない
売却許可決定が確定したら、買受人は裁判所書記官の定める期限までに代金を執行裁判所に納付します(78条1項)。入札時に提供した保証は代金に充てられます(同2項)。裁判所書記官は、特に必要があると認めるときはこの期限を変更できます(同5項)。
期限までに納めなかった場合の扱いは明確です。80条1項は「買受人が代金を納付しないときは、売却許可決定は、その効力を失う。この場合においては、買受人は、第六十六条の規定により提供した保証の返還を請求することができない」と定めています。売却基準価額の2割相当が戻らない、ということです。
| 時点 | 買受人の状態 | 根拠 |
|---|---|---|
| 売却許可決定の言渡し | まだ効力は生じていない | 74条5項(確定しなければ効力を生じない) |
| 売却許可決定の確定 | 代金を納付する義務が生じる | 78条1項 |
| 代金の納付 | 不動産を取得する | 79条 |
| 期限までに納付しない | 売却許可決定は失効し、保証は返還を請求できない | 80条1項 |
代金が納付されなかった場合で次順位買受けの申出があるときは、執行裁判所はその申出について売却の許可または不許可の決定をしなければなりません(80条2項)。手続きが最初からやり直しになるとは限らない設計です。
引渡命令の申立ては代金納付から6か月以内
買受人が不動産を明け渡してもらう手段が引渡命令です。執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者または不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができます(83条1項)。ただし、事件の記録上、買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては命じられません。
期限があります。買受人は、代金を納付した日から6か月を経過したときは申立てができません(83条2項)。例外として、買受けの時に民法395条1項に規定する抵当建物使用者が占有していた建物の買受人については9か月です。賃貸中の建物を落札した場合の扱いは、賃貸中の不動産を担保に入れるとどうなる?で6か月の引渡し猶予とあわせて整理しています。
担保を出した側にとっては、代金が納付された時点で所有権が移り、そこから最長6か月のうちに引渡命令が出うる、という時間軸になります。返済が滞ったあとの流れ全体は不動産担保ローンを返済できないとどうなる?にまとめています。
よくある質問
- 売却基準価額と買受可能価額はどう違いますか。
- 売却基準価額は、執行裁判所が評価人の評価に基づいて定める、売却の額の基準となるべき価額です(60条1項)。買受可能価額は、そこから10分の2に相当する額を控除した価額で、入札額の下限になります(同3項)。
- 債務者本人は自分の不動産を買い戻せますか。
- できません。民事執行法68条は「債務者は、買受けの申出をすることができない」と定めています。
- 落札したら、その日から所有者になりますか。
- なりません。79条は「買受人は、代金を納付した時に不動産を取得する」と定めています。その前に、売却許可決定が確定している必要があります(74条5項・78条1項)。
- 保証金はいくらですか。
- 条文では「執行裁判所が定める額」とされています(66条)。東京地方裁判所の取扱いを紹介する案内では、売却基準価額の10分の2以上で、事件ごとの金額は期間入札の公告の「買受申出保証額」で確認するとされています。
- 入札書を出したあとに金額を変えられますか。
- できません。案内では、いったん提出した入札書を撤回したり記載内容を変更したりすることはできないと明記されています。
- 落札後に建物が壊れた場合はどうなりますか。
- 天災その他自己の責めに帰することができない事由で不動産が損傷した場合、売却許可決定前なら売却の不許可の申出、決定後なら代金を納付する時までに決定の取消しの申立てができます(75条1項)。ただし損傷が軽微であるときは除かれます。
- 担保不動産競売にも同じ条文が当てはまりますか。
- 当てはまります。188条は、強制競売に関する規定を担保不動産競売について準用すると定めています。
出典
- e-Gov法令検索「民事執行法」(昭和五十四年法律第四号)https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004(60条の売却基準価額・買受可能価額、63条の剰余を生ずる見込みのない場合等の措置、64条の売却の方法及び公告、66条の買受けの申出の保証、68条の債務者の買受けの申出の禁止、69条の売却決定期日、71条の売却不許可事由、74条5項、75条、78条の代金の納付、79条の不動産の取得の時期、80条の代金不納付の効果、83条の引渡命令、188条の準用)
- BIT 不動産競売物件情報サイト「入札等の手続について」https://www.bit.courts.go.jp/guidance/guidance03/index.html(東京地方裁判所の取扱いの一例。保証金は売却基準価額の10分の2以上で公告の「買受申出保証額」で確認、裁判所専用の振込依頼書による入金、暴力団員等に該当しない旨の陳述書は入札書ごとに必要で提出がないと入札無効・追完不可、添付書類は3か月以内の代表者事項証明書または住民票等、入札書の撤回・変更は不可)
- 裁判所「担保不動産競売」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_25_03/index.html(担保権の実行としての競売の位置づけ)
条文は2026年9月29日にe-Gov法令検索で表示されていたもので、令和8年5月21日施行の内容です。保証金の額や書類の様式は裁判所ごとに運用が異なる場合があります。個別の手続きは、その事件を取り扱っている裁判所にお問い合わせください。この記事は情報提供であり、法律上の助言ではありません。










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