先に結論
担保不動産競売にかけられると、その物件について物件明細書・現況調査報告書・評価書の3つが作られます。実務でいう「3点セット」です。
この3つは誰でも見られます。民事執行法62条2項は、物件明細書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供するか、不特定多数の者が内容の提供を受けられる措置を講じなければならないと定めています。実際、裁判所のBIT不動産競売物件情報サイトで公開されています。
売却の値段の下限もここで決まります。評価人の評価にもとづいて売却基準価額が定まり、買受けの申出はその10分の2を差し引いた額(買受可能価額)以上でなければならないと60条が定めています。市場価格ではなく、この8割が下限になります。
3点セットは民事執行法の3つの条文から生まれる
「3点セット」は俗称ですが、中身は条文で決まっています。作る人も、書く内容も別々です。
| 書類 | 根拠条文 | 作る人 | 中身 |
|---|---|---|---|
| 物件明細書 | 民事執行法62条 | 裁判所書記官 | 不動産の表示/売却によって効力を失わない権利の取得と仮処分の執行/売却により設定されたとみなされる地上権の概要 |
| 現況調査報告書 | 同57条 | 執行官 | 不動産の形状、占有関係その他の現況 |
| 評価書 | 同58条 | 執行裁判所が選任した評価人 | 近傍同種の不動産の取引価格、収益、原価その他の価格形成上の事情を勘案した評価 |

62条1項が挙げている3項目のうち、実務で最も重く見られるのは第二号の「売却によりその効力を失わないもの」です。買受人が引き継ぐことになる権利がここに書かれます。抵当権のように売却で消える権利と、消えずに残る権利があり、その線引きがこの欄に集約されます。
現況調査は執行官が中に入って行う
現況調査は、書類の上だけで済ませるものではありません。57条は執行官に強い権限を与えています。
執行官は、前項の調査をするに際し、不動産に立ち入り、又は債務者若しくはその不動産を占有する第三者に対し、質問をし、若しくは文書の提示を求めることができる。
執行官は、前項の規定により不動産に立ち入る場合において、必要があるときは、閉鎖した戸を開くため必要な処分をすることができる。
立ち入りだけでなく、閉鎖した戸を開くための処分までできると条文に書かれています。さらに57条4項では、市町村に対して固定資産税に関して保有する図面その他の資料の写しの交付を請求でき、5項では電気・ガス・水道水の供給その他これらに類する継続的給付を行う公益事業を営む法人に対し、必要な事項の報告を求めることができるとされています。
借りている側から見ると、これは住んでいる状態が外部に記録され、公開されるということです。占有関係や室内の状況が報告書に記載され、写真が添えられることもあります。競売が始まってから止める手段を探すより、期限の利益を失う前に動くほうが選べる手は多く残ります。
期限の利益を失う条件そのものは期限の利益を失うとどうなる?民法137条が挙げる3つと、契約書が足す条項の違いにまとめました。競売を避ける選択肢としての売り方は任意売却とは?競売との違いと8段階の流れを住宅金融支援機構の公表資料で確認で扱っています。
値段の下限は「売却基準価額の8割」
評価書が出ると、それにもとづいて執行裁判所が売却基準価額を定めます。ここから入札の下限が決まります。
買受けの申出の額は、売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額(以下「買受可能価額」という。)以上でなければならない。
| 用語 | 意味 | 根拠 |
|---|---|---|
| 評価 | 評価人が価格形成上の事情を勘案して出す価格 | 58条 |
| 売却基準価額 | 評価にもとづいて執行裁判所が定める、売却の額の基準となるべき価額 | 60条1項 |
| 買受可能価額 | 売却基準価額から10分の2を引いた額。入札はこれ以上でなければならない | 60条3項 |
たとえば売却基準価額が2,000万円なら、買受可能価額は1,600万円です。1,600万円の入札でも有効に成立します。競売の落札額が相場より低く出やすいと言われる背景には、この下限の設計があります。
58条2項は、評価人が「強制競売の手続において不動産の売却を実施するための評価であることを考慮しなければならない」とも定めています。通常の売買を前提にした査定額とは、出発点から違う数字だということです。
売却基準価額は固定ではありません。60条2項は、執行裁判所が必要と認めるときは変更できると定めています。一度の入札で買い手が付かなかった場合、次の回に向けて見直されることがあります。
誰でも見られる。BITで公開されている
3点セットは、関係者だけが見る資料ではありません。62条2項は、物件明細書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供するか、不特定多数の者が内容の提供を受けられる措置を講じることを義務づけています。
その措置として運用されているのが、裁判所の不動産競売物件情報サイト(BIT)です。地域や裁判所ごとに物件が掲載され、閲覧可能な件数もその場で表示されます。

自分の物件が競売にかけられた場合、所在地や現況、占有の状況といった情報がこのサイトから誰でも参照できる状態になります。非公開の手続きではありません。この点は、当事者間で条件を詰める任意売却との大きな違いです。
売却の方法と、当日までの流れ
売却の方法は64条が定めています。裁判所書記官が方法を決め、入札または競り売りのほか、最高裁判所規則で定める方法によるとされています。入札や競り売りで売却するときは、書記官が日時と場所を定め、執行官に売却を実施させます。
現況調査と評価
執行裁判所が執行官に現況調査を命じ(57条)、評価人を選任して評価を命じます(58条)。
売却基準価額の決定
評価にもとづいて執行裁判所が売却基準価額を定めます(60条1項)。その8割が買受可能価額になります。
物件明細書の作成と公開
裁判所書記官が物件明細書を作り、写しを備え置いて一般の閲覧に供します(62条)。3点セットがそろうのはこの段階です。
公告と売却の実施
書記官が不動産の表示、売却基準価額、売却の日時と場所を公告します(64条5項)。売却決定期日は、売却を実施させる処分と同時に指定されます。
物件明細書・現況調査報告書・評価書に対する裁判所書記官の処分には、執行裁判所へ異議を申し立てることができるとも定められています(62条3項)。記載に誤りがあると考える場合の手当てが条文に用意されています。
買う側から見た3点セットの読み方
担保に入れる側だけでなく、競売物件を買う側にとっても、3点セットは唯一まとまった情報源です。ただし通常の売買とは情報の性質が違います。
図:3点セットで分かること・分からないこと
分かること
不動産の表示、形状と占有関係、売却で消えない権利、地上権の概要、評価の根拠と売却基準価額
書かれていないこと
内覧を前提にした室内の詳細や、引渡しの具体的な段取り。売主の説明義務にもとづく告知はありません
読み落とすと重い項目
物件明細書の「売却によりその効力を失わないもの」。ここに載った権利は買受人が引き継ぎます
抵当権が売却で消えるかどうかは、その不動産に付いている権利の順位関係で決まります。順位の考え方は抵当権の順位は変えられる?民法374条の合意と登記、賃貸中の物件で引渡しがどうなるかは賃貸中の建物を担保にしたら?民法395条の6か月の引渡し猶予で整理しています。
よくある質問
3点セットは誰が見られますか
誰でも見られます。民事執行法62条2項が、物件明細書の写しを執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供するか、不特定多数の者が内容の提供を受けられる措置を講じることを義務づけています。実際には裁判所のBIT不動産競売物件情報サイトで公開されています。
いくらから入札できますか
買受可能価額以上です。民事執行法60条3項は、買受けの申出の額は売却基準価額からその10分の2に相当する額を控除した価額以上でなければならないと定めています。売却基準価額が2,000万円なら1,600万円が下限です。
執行官は部屋の中まで入りますか
入ることができます。57条2項は不動産への立ち入りと、債務者や占有する第三者への質問・文書の提示の求めを認めており、3項は必要があるときに閉鎖した戸を開くための処分もできるとしています。
評価書の金額は相場と同じですか
同じとは限りません。58条2項は、評価人が価格形成上の事情を勘案したうえで、競売の手続において売却を実施するための評価であることを考慮しなければならないと定めています。通常の売買を前提にした査定とは前提が異なります。
記載内容が事実と違うときはどうしますか
62条3項により、物件明細書の作成や備置きに関する裁判所書記官の処分に対しては、執行裁判所に異議を申し立てることができます。
この記事で確認した一次情報(いずれも2026年9月28日に表示を確認)
- e-Gov法令検索「民事執行法」(昭和54年法律第4号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004(57条の現況調査と執行官の権限、58条の評価、60条の売却基準価額と買受可能価額、62条の物件明細書と一般の閲覧、64条の売却の方法及び公告) - 裁判所「BIT 不動産競売物件情報サイト」
https://www.bit.courts.go.jp/app/top/pt001/h01(2026年9月28日22時時点で閲覧可能な競売物件1,558件の表示、裁判所別の物件情報)










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