抵当権とは?民法369条が定める「占有を移さない担保」と、抵当権者・設定者・債務者の関係

抵当権とは何が動くのか。民法第369条と「占有を移転しないで債務の担保に供した不動産」を掲げたアイキャッチ

不動産を担保に借りるとき、登記簿の乙区に抵当権設定と記録されます。ところが「抵当権が付いた」と言われても、何がどう変わったのかは説明されないままのことが多い。家を取り上げられるのか、住み続けられるのか、貸せるのか、売れるのか。答えはすべて民法の第二編第十章に条文で書かれています。条文をたどりながら、抵当権者・抵当権設定者・債務者の三者がそれぞれ何を持ち、何を失うのかを整理します。

条文で確認できること

  • 抵当権者は、債務者または第三者が占有を移転しないで担保に供した不動産について、他の債権者に先立って弁済を受ける権利を持ちます(民法369条1項)。
  • だから住み続けられるし、貸すことも売ることもできます。移るのは占有ではなく、優先弁済の順位だけです。
  • 同じ不動産に複数の抵当権が付いたときの順位は登記の前後で決まります(373条)。早く登記したほうが上位です。
  • 利息について抵当権を行使できるのは満期となった最後の2年分だけ(375条1項)。後順位の抵当権者を守るための制限です。
  • 土地と建物が同じ所有者で、その一方に抵当権が設定され、実行で所有者が別々になったときは、建物に地上権が設定されたものとみなされます(388条・法定地上権)。

369条が定めているのは「占有を移さない担保」

抵当権の定義は1条で足ります。民法369条1項はこう書いています。

民法 第369条(抵当権の内容)

抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

要点は2つです。ひとつは占有を移転しないこと。質権のように物を渡す必要がありません。もうひとつは他の債権者に先立って弁済を受けること。返済が滞ったとき、その不動産の換価代金から優先的に回収できます。

e-Gov法令検索の民法のページの画面。第369条 抵当権の内容、第370条 抵当権の効力の及ぶ範囲、第373条 抵当権の順位が表示されている
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第二編第十章 抵当権

同条2項は、地上権および永小作権も抵当権の目的にできるとしています。つまり所有権だけが対象ではありません。ただし実務で担保に取られるのは、ほとんどが土地と建物の所有権です。

三者の呼び名を取り違えない

抵当権の話がややこしく感じるのは、登場人物が3人いて、しかも2人が同一人物のことが多いためです。条文の言葉に沿って整理します。

呼び名 立場 持つもの・負うもの 登記簿での表れ方
抵当権者 お金を貸し、担保を取る側 優先弁済を受ける権利、順位 乙区の抵当権者の欄に記録される
抵当権設定者 不動産を担保に差し出す側 所有権と占有は残る。実行されれば失う 甲区の所有者と同一。乙区に設定の登記
債務者 返済の義務を負う側 返済義務。抵当不動産を持つとは限らない 乙区の債務者の欄に記録される

369条が「債務者又は第三者が」と書いているのは、抵当権設定者と債務者が別人でよいという意味です。親の土地を担保に子が借りる、という形が成立するのはこのためです。このとき親は債務を負わず、土地を失うリスクだけを負います。その立場は物上保証人と呼ばれます。

担保を出す人と借りる人が別のとき、返済が滞ったときに最初に連絡が来るのは債務者です。物上保証人が事態を知るのが遅れることがあります。契約前に、通知の宛先と頻度を取り決めておくのが安全です。

効力はどこまで及ぶのか

抵当権が設定されたあと、その不動産に何かを付け足したらどうなるか。370条が範囲を定めています。抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その不動産に付加して一体となっている物に及びます。

及ぶもの

不動産に付加して一体となっている物。建物に取り付けた設備のように、分離できない形で一体化したものが含まれます。

及ばないもの

抵当地の上に存する建物。土地に抵当権を設定しても、その上の建物には及びません。別々に登記する対象だからです。

果実への効力

担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及びます(371条)。賃料はこれに含まれます。

設定行為の定め

設定行為に別段の定めがある場合は、370条の範囲は適用されません。契約書の担保の範囲の条項を確認します。

民法370条・371条が定める抵当権の効力の範囲

土地と建物が別扱いという点は、実務でよく効きます。土地だけに抵当権を設定した場合、建物は担保に入っていません。担保余力を見るときは、土地と建物のどちらに設定されているかを登記簿で確かめる必要があります。読み方は登記事項証明書の読み方にまとめています。

順位は登記の前後で決まる

同じ不動産に複数の抵当権を設定できます。そのときの優先順位を決めるのは、契約した日でも金額でもありません。

民法 第373条(抵当権の順位)

同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。

第1順位の抵当権者が回収を終えたあとに残った額から、第2順位が回収します。残らなければ第2順位以降は取れません。だからこそ、2番手以降の融資は金利が高くなり、そもそも断られることが増えます。

順位 設定額 換価代金3,000万円のときの回収 換価代金1,800万円のときの回収
第1順位 2,000万円 2,000万円(全額) 1,800万円(一部)
第2順位 1,500万円 1,000万円(一部) 0円
第3順位 500万円 0円 0円

順位は各抵当権者の合意で変更できますが、利害関係人がいるときはその承諾が要り、変更の登記をしなければ効力を生じません(374条)。当事者だけで決めて終わり、という話にはなりません。

利息は「最後の2年分」しか取れない

見落とされやすい制限が375条です。抵当権者が利息その他の定期金を請求する権利を持つとき、抵当権を行使できるのは、満期となった最後の2年分についてのみとされています。

e-Gov法令検索の民法のページの画面。第375条 抵当権の被担保債権の範囲として、満期となった最後の二年分についてのみ抵当権を行使できると書かれている
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第375条

損害賠償についても最後の2年分が対象で、利息その他の定期金と通算して2年分を超えられません。なぜこんな制限があるのか。放っておくと利息が際限なく積み上がり、後順位の抵当権者の取り分が消えてしまうからです。順位という制度を機能させるための仕組みだと考えると理解しやすくなります。

この2年分は、元本には掛かりません。元本は登記された債権額の全部が対象です。制限されるのは利息・定期金・遅延損害金の部分で、それ以前の分についても満期後に特別の登記をすれば、その登記の時から行使できます(375条1項ただし書)。

実行されるとどうなるか

返済が滞ると、抵当権者は担保不動産を競売にかけて回収します。ここで問題になるのが、土地と建物の関係、そして住んでいる人の扱いです。

法定地上権土地と建物が同一の所有者で、その一方に抵当権が設定され、実行により所有者が別になったときは、建物に地上権が設定されたものとみなされます(388条)。地代は当事者の請求により裁判所が定めます
明渡しの猶予抵当権者に対抗できない賃貸借で建物を使用している者は、競売の買受人の買受けの時から6か月を経過するまで、建物を引き渡す必要がありません(395条1項)
猶予が外れる場合買受けの時より後の使用の対価について、買受人が1か月分以上の支払いを相当の期間を定めて催告し、その期間内に履行がないときは猶予は適用されません(395条2項)
対抗要件不動産に関する物権の得喪および変更は、登記をしなければ第三者に対抗できません(177条)。設定しただけで登記していない抵当権は、第三者に主張できません
実行の局面で効いてくる条文

法定地上権の規定がなければ、土地だけが競落されたときに建物の所有者は自分の建物を壊すしかなくなります。条文はその事態を避けるために、地上権があるものとみなす形をとっています。競売ではなく任意売却で処理する道もあり、流れは任意売却とはに整理しました。

抵当権と根抵当権はどう違うか

実務でもうひとつ出てくるのが根抵当権です。抵当権が特定の債権を担保するのに対し、根抵当権は一定の範囲に属する不特定の債権を極度額まで担保します。

項目 抵当権 根抵当権
担保する債権 特定の債権 一定の範囲に属する不特定の債権
金額の枠 登記された債権額 極度額。定めがなければ個人根保証では効力を生じない
完済したとき 付従性により消滅する 元本確定まで消えない。借り直しに使える
向く場面 1回の借入 反復して借りたり返したりする取引

違いの詳細は根抵当権とはに分けて整理しています。完済したのに登記が残る点は共通で、抹消の手続きは別に必要です。手順は抵当権抹消は自分でできるかを参照してください。

よくある質問

抵当権が付いている家に住み続けられますか。

住めます。民法369条1項は「占有を移転しないで」担保に供すると定めており、占有は設定者のもとに残ります。移るのは優先弁済の順位だけです。

抵当権付きの不動産を売れますか。

売却そのものは可能です。ただし抵当権は不動産に付いたまま移るため、買主が引き受けるか、売買代金で完済して抹消するかを決める必要があります。実務では決済と同時に抹消する形が一般的です。

抵当権者と債権者は同じですか。

通常は同じです。お金を貸した人が担保を取るためです。ただし債権が譲渡されれば抵当権も移るため、登記簿上の抵当権者が当初の貸主と異なることはあります。

抵当権設定者が債務者でない場合、返済義務はありますか。

ありません。物上保証人は担保として差し出した不動産の価値の範囲で責任を負うだけで、返済義務そのものは債務者にあります。ただし実行されれば不動産を失います。

抵当権を登記しないとどうなりますか。

当事者間では効力がありますが、民法177条により第三者に対抗できません。順位も登記の前後で決まるため(373条)、登記しなければ他の抵当権者に劣後します。

賃貸中の物件に抵当権を設定できますか。

できます。占有を移さない担保なので、賃貸を続けたまま設定できます。ただし担保する債権に不履行があったあとは、その後に生じた果実(賃料)に抵当権の効力が及びます(371条)。

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