抵当権は譲れる?民法376条が認める5つの処分と、374条の順位変更との違いを条文で確認

民法374条の順位の変更と376条の抵当権の処分を左右2枚のカードで対置したアイキャッチ
結論から

抵当権は、いったん設定したら動かせない権利ではありません。民法376条1項は、抵当権者がその抵当権を他の債権の担保とし(転抵当)、または同一の債務者に対する他の債権者の利益のために、その抵当権もしくはその順位を譲渡し、もしくは放棄することができると定めています。

ここで並んでいるのは5つの行為です。転抵当、抵当権の譲渡、抵当権の放棄、順位の譲渡、順位の放棄。前の3つは抵当権そのものを対象にし、後ろの2つは順位だけを対象にします。

順位を動かす条文はもう1本あります。374条の順位の変更です。ただし同じ「順位を動かす」でも、374条は各抵当権者の合意と利害関係者の承諾が要り、登記をしなければ効力が生じません。376条の処分は当事者間の行為で、受益者どうしの順位は抵当権の登記にした付記の前後で決まります。

登録免許税も別扱いです。374条の順位の変更の登記は登録免許税法別表第一1(8)で抵当権1件につき1,000円と明記されています。

376条が並べている5つの処分

条文をそのまま読みます。

抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。(民法376条1項)

一文に見えますが、「その抵当権を他の債権の担保とし」と「その抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄する」の2つのかたまりでできています。後半は「抵当権/順位」×「譲渡/放棄」の組み合わせなので4通り。前半と合わせて5つです。

表1 民法376条1項が認めている5つの処分
名称 条文上の表現 何を動かすか
転抵当 その抵当権を他の債権の担保とし 抵当権そのものを、別の債権の担保に差し出す
抵当権の譲渡 その抵当権を譲渡し 抵当権を他の債権者に渡す
抵当権の放棄 その抵当権を放棄し 他の債権者のために抵当権を主張しない
順位の譲渡 その順位を譲渡し 順位だけを他の債権者に渡す
順位の放棄 その順位を放棄する 他の債権者のために順位を主張しない

相手方は「同一の債務者に対する他の債権者」と限定されています。まったく関係のない第三者に渡せるわけではありません。

e-Gov法令検索で表示した民法第376条から第381条までの画面。抵当権の処分、抵当権の処分の対抗要件、代価弁済、抵当権消滅請求の条文が並んでいる
出典:e-Gov法令検索「民法」376条〜381条(令和8年6月24日施行版/2026年9月27日確認)

受益者どうしの順位は「付記の前後」で決まる

376条2項は、抵当権者が数人のために処分をしたときの処理を定めています。

前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。(民法376条2項)

ここが実務で効きます。1人の抵当権者が複数の相手に処分をすると、受益者の間で優先関係が問題になります。その決め手は契約の日付ではなく、抵当権の登記に付けた付記登記の前後です。

抵当権の順位そのものが登記の前後で決まる(373条)のと同じ発想が、処分の場面にも持ち込まれている形です。順位の決まり方については抵当権の順位は変えられるかにまとめています。

対抗要件は債権譲渡と同じ通知・承諾

処分をしただけでは、主たる債務者や保証人に主張できません。377条1項がこう定めます。

図1 377条が定める対抗要件と効果

対抗要件

467条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知するか、主たる債務者が承諾すること

対抗できない相手

主たる債務者、保証人、抵当権設定者、これらの者の承継人

通知・承諾のあと

主たる債務者が通知を受けまたは承諾をしたときは、処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない(377条2項)

実務上の意味

通知後は、債務者が抵当権者に払っても、受益者にはその弁済を主張できない。受益者の同意なしに決済を進められなくなる

債権譲渡の対抗要件(467条)を借りてきている点に注目してください。抵当権の処分は、担保の世界の話でありながら、手続の作法は債権譲渡と同じです。

374条の順位の変更とは仕組みが違う

「順位を入れ替える」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは374条のほうです。両者は条文の要件からして別物です。

表2 374条の順位の変更と376条の順位の譲渡・放棄
項目 374条 順位の変更 376条 順位の譲渡・放棄
誰の合意が要るか 各抵当権者の合意 処分する抵当権者と受益者
第三者の承諾 利害関係を有する者があるときはその承諾 条文上の定めなし
登記の位置づけ 登記をしなければ効力を生じない(374条2項) 受益者どうしの順位は付記の前後による(376条2項)
対抗要件 条文上の定めなし 主たる債務者への通知または承諾(377条1項)
登録免許税 抵当権1件につき1,000円 別表第一に個別の掲名なし

374条1項は「抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。」、2項は「前項の規定による順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。」です。登記が効力要件になっているところが、376条との大きな違いです。

図2 どちらを使うかを分ける問い

1

動かしたいのは順位そのものか

関係する抵当権者全員で順位を並べ替えるなら374条。特定の相手との間だけで優先関係を作るなら376条。

2

全員の合意を取れるか

374条は各抵当権者の合意が要件。1人でも応じなければ成立しません。

3

抵当権を持たない債権者に優先権を与えたいか

順位は抵当権があって初めて意味を持ちます。抵当権を持たない相手に渡すなら、順位ではなく抵当権そのものを対象にする処分になります。

4

抵当権を担保に入れて資金を取りたいか

抵当権者自身が資金調達したい場合は、抵当権を他の債権の担保とする転抵当が選択肢になります。

登録免許税は別表第一のどこに当たるか

登録免許税法の別表第一は、不動産の登記の税率を行ごとに掲げています。抵当権に関係する行を抜き出すと次のようになります。

表3 登録免許税法 別表第一の一(不動産の登記)から抵当権に関する行(2026年9月27日確認)
号 登記の種類 課税標準 税率
(5) 先取特権の保存、質権若しくは抵当権の設定など 債権金額、極度金額または不動産工事費用の予算金額 千分の四
(6)イ 先取特権、質権または抵当権の移転(相続または法人の合併による) 債権金額または極度金額 千分の一
(6)ロ 同上(その他の原因による移転) 債権金額または極度金額 千分の二
(7) 根抵当権の一部譲渡または法人の分割による移転 一部譲渡または分割後の共有者の数で極度金額を除した金額 千分の二
(8) 抵当権の順位の変更 抵当権の件数 1件につき1,000円
(14) 付記登記((1)から(13)までに掲げるものを除く) 不動産の個数 1個につき1,000円

376条の処分については、別表第一に「抵当権の処分」という行がありません。376条2項が順位を付記の前後で決めているとおり、これらの登記は付記登記としてされるため、(1)から(13)までに掲げられていない付記登記として(14)に当たる扱いになります。個別の事案の課税標準と税率は、申請前に登記所または司法書士に確認してください。

抵当権の設定そのものにかかる0.4%の計算は不動産担保ローンの諸費用にまとめています。複数の不動産に同じ債権のための抵当権を設定する共同抵当では2件目以降が定額になる仕組みがあり、こちらは共同抵当の登録免許税で扱いました。

よくある質問

抵当権の譲渡と抵当権の移転は同じものですか

条文上は別の場面です。376条の譲渡は「同一の債務者に対する他の債権者の利益のために」する処分で、登録免許税法別表第一1(6)の「抵当権の移転の登記」は債権が移ることに伴う移転を掲げています。どの登記に当たるかは登記の原因によって決まります。

順位の譲渡をすると、他の抵当権者の取り分は変わりますか

376条は処分の当事者と受益者の関係を定めた規定で、処分に関与していない抵当権者の順位を動かす条文ではありません。全抵当権者の順位そのものを並べ替えるのは374条の順位の変更で、こちらは各抵当権者の合意と、利害関係を有する者があるときはその承諾が要件です。

通知はいつまでにすればよいですか

条文に期限の定めはありませんが、通知または承諾がなければ主たる債務者・保証人・抵当権設定者およびこれらの承継人に対抗できません(377条1項)。通知前に債務者が弁済してしまうと、受益者はその弁済を争えなくなります。

転抵当をすると元の抵当権はどうなりますか

376条1項は「その抵当権を他の債権の担保とし」と書いており、抵当権が消えるとは定めていません。抵当権はそのまま存続し、別の債権の担保としても働く状態になります。

順位の変更の登記に登録免許税はいくらかかりますか

登録免許税法別表第一1(8)は、抵当権の順位の変更の登記について課税標準を「抵当権の件数」、税率を「1件につき1,000円」としています。順位を入れ替える抵当権の数で決まり、債権額では決まりません。

参照した一次情報

  • e-Gov法令検索「民法」(明治29年法律第89号)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(373条の順位、374条の順位の変更と登記が効力要件である旨、376条1項の5つの処分と2項の付記の前後、377条の対抗要件と弁済の扱い。令和8年6月24日施行版/2026年9月27日確認)
  • e-Gov法令検索「登録免許税法」(昭和42年法律第35号)別表第一https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035(一(5)抵当権の設定は千分の四、(6)移転は千分の一・千分の二、(7)根抵当権の一部譲渡は千分の二、(8)順位の変更は1件1,000円、(14)付記登記は不動産1個につき1,000円。令和8年7月23日施行版/2026年9月27日確認)
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