自宅の土地だけを担保に入れたい、建物は事業と関係ないから外したい。相談の場でよく出る希望ですが、金融機関はたいてい土地と建物の両方を求めます。理由は担当者の好みではなく、民法388条という条文にあります。所有者が同じ土地と建物の一方だけに抵当権を設定すると、競売のあとに建物へ地上権が発生し、土地の価値が落ちる仕組みになっているためです。
先に要点
- 民法388条は、土地とその上の建物が同一の所有者に属する場合に、一方だけの抵当権が実行されて所有者が分かれたとき、その建物について地上権が設定されたものとみなすと定めています。
- 地上権が付いた土地は、他人の建物が建ったまま使えない土地になります。更地として評価できないため、担保評価が下がります。
- 民法370条により、抵当権は目的である不動産に付加して一体となっている物に及びますが、抵当地の上に存する建物は除かれます。土地に抵当権を付けても建物は自動的には入りません。
- 抵当権の設定後に建物が建てられた場合は民法389条が働き、土地とともに競売できますが、優先権は土地の代価についてのみ行使できます。
民法388条は何を定めているのか
条文はごく短く、要件も限られています。
民法第388条(法定地上権)
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

文言を分解すると、成立する場面は次の条件がそろったときです。抵当権の設定時に土地と建物が存在していること、その土地と建物が同一の所有者に属していること、土地または建物に抵当権が設定されたこと、そして抵当権の実行により土地と建物の所有者が別々になったことです。
注意したいのは、これが当事者の合意ではなく法律の効果として発生する点です。「地上権は設定しない」と契約書に書いても、条文が「設定されたものとみなす」と定めている以上、競売の買受人との関係では働きます。
なぜ土地の担保評価が下がるのか
地上権が付いた土地は、地上権者の建物が建ったままの土地になります。所有者は自分で使うことも、更地として売ることもできません。受け取れるのは地代で、しかもその額は当事者の請求により裁判所が定めるとされています。
| 担保に入れる範囲 | 競売後の状態 | 土地の使い方 | 担保評価への影響 |
|---|---|---|---|
| 土地だけ | 買受人が土地を取得。建物は元の所有者のまま | 他人の建物が建ったまま | 更地として評価できない |
| 建物だけ | 買受人が建物を取得。土地は元の所有者のまま | 土地所有者は建物を退かせられない | 土地の自由度が失われる |
| 土地と建物の両方 | 両方が同じ買受人へ渡り得る | 所有者が分かれない | 388条が働かない |
だから金融機関は土地と建物の一括担保を求めます。所有者が分かれない限り、条文の最後の要件である「所有者を異にするに至った」が満たされないからです。土地と建物の名義が親と子で分かれている場合は、この前提から崩れるため、事前に整理が必要になります。
評価そのものの考え方は不動産の評価額は4つあるにまとめています。
建物は「付加して一体となっている物」ではない
土地に抵当権を設定すれば建物も含まれるのでは、という誤解があります。条文はその逆を書いています。
民法第370条(抵当権の効力の及ぶ範囲)
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び債務者の行為について第四百二十四条第三項に規定する詐害行為取消請求をすることができる場合は、この限りでない。
「抵当地の上に存する建物を除き」という一句が入っています。日本の法制度では土地と建物が別個の不動産として扱われるため、土地の抵当権は建物に及びません。塀や庭石のような付加物には及びますが、建物は別扱いです。
あわせて第371条は、抵当権はその担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶと定めています。賃料などの果実に効力が及ぶのは、不履行の後だという点が条文に明示されています。
設定後に建てた建物はどうなるか
更地に抵当権を設定し、そのあとに建物を建てた場合は別の条文が働きます。
民法第389条(抵当地の上の建物の競売)
抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。
抵当権者は土地と建物をまとめて競売にかけられますが、優先的に回収できるのは土地の代価からだけです。建物の代価は他の債権者と分け合うことになります。第2項では、建物の所有者が抵当地を占有することについて抵当権者に対抗できる権利を持つ場合には、この規定を適用しないとされています。
更地に抵当権を設定したあとに建物を建てる予定があるなら、契約前に金融機関へ伝えるのが安全です。設定時に建物が存在していなかった場合、388条の要件である「土地及びその上に存する建物」を欠くため、法定地上権は成立しないと解されています。買受人と建物所有者の関係は389条の枠組みで処理されることになります。
強制競売の場合は民事執行法81条
担保権の実行ではなく、判決などに基づく強制競売の場合は、民事執行法に同じ趣旨の規定があります。
民事執行法第81条(法定地上権)
土地及びその上にある建物が債務者の所有に属する場合において、その土地又は建物の差押えがあり、その売却により所有者を異にするに至つたときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合においては、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

民法388条が「同一の所有者に属する場合」とするのに対し、民事執行法81条は「債務者の所有に属する場合」としています。担保不動産競売については、民事執行法188条が第81条を除いて準用すると定めており、そちらでは民法388条が適用されます。
抵当権の順位は登記の前後で決まる
担保余力を考えるときに合わせて押さえたいのが順位です。民法373条は、同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は登記の前後によると定めています。先に登記した者が先に回収します。
1番抵当
競売の代価から先に弁済を受けます。残債が少なければ、後順位にも配当が回ります。
2番抵当
1番の回収後に残った分からの弁済です。順位は合意ではなく登記の前後で決まります。
共同抵当
民法392条により、同時に配当すべきときは各不動産の価額に応じて債権の負担を按分します。
2番抵当での借入については第二抵当権(2番抵当)とはで扱っています。抵当権そのものの位置づけは民法369条が定める「占有を移さない担保」を参照してください。
| 条文 | 見出し | 定めている内容 |
|---|---|---|
| 民法第370条 | 抵当権の効力の及ぶ範囲 | 抵当地の上に存する建物を除き、付加して一体となっている物に及ぶ |
| 民法第371条 | — | 担保する債権に不履行があったとき、その後に生じた果実に及ぶ |
| 民法第373条 | 抵当権の順位 | 数個の抵当権の順位は登記の前後による |
| 民法第388条 | 法定地上権 | 同一所有者の土地・建物の一方の抵当権実行で所有者が分かれたとき、建物に地上権が設定されたものとみなす |
| 民法第389条 | 抵当地の上の建物の競売 | 設定後に築造された建物は土地とともに競売できるが、優先権は土地の代価のみ |
| 民法第392条 | 共同抵当における代価の配当 | 同時に配当すべきときは各不動産の価額に応じて債権の負担を按分する |
| 民事執行法第81条 | 法定地上権 | 債務者所有の土地・建物の一方の差押え・売却で所有者が分かれたとき、建物に地上権が設定されたものとみなす |
申し込み前に確認する手順
土地と建物の名義を登記で確認する
同一名義かどうかが388条の入口です。登記事項証明書の甲区で所有者を見ます。
建物の登記の有無を確認する
未登記の建物があると、担保の設定も競売後の処理も複雑になります。
一括担保で見積もりを取る
土地だけの見積もりと比べると、評価額と金利の差が数字で出ます。
建築予定を伝える
更地に設定したあとの築造は389条の扱いになります。予定があるなら契約前に共有します。
登記事項証明書の読み方は甲区・乙区で担保余力が分かるにまとめました。
この記事で確認できなかったこと
- 地代の具体的な水準。条文は当事者の請求により裁判所が定めるとするのみで、金額の基準は書かれていません。
- 法定地上権が付いた土地の評価をどの程度割り引くか。金融機関ごとの評価基準であり、公表されていません。
- 土地と建物の所有者が同一かどうかの判定について、共有名義が絡む場合の細かい取扱い。個別の事案は専門家の判断が要ります。
- 存続期間。民法388条の条文には期間の定めがなく、この記事の調査では判断の根拠を確認できませんでした。
よくある質問
土地だけを担保にできませんか
法律上は可能ですが、民法388条により競売後に建物へ地上権が発生し得るため、金融機関は評価を下げるか一括担保を求めるのが通常です。
建物が親名義でも法定地上権は成立しますか
民法388条は「同一の所有者に属する場合」を要件としています。名義が分かれている場合、この要件を満たしません。ただし競売後の建物の扱いは別の法律関係で決まるため、個別の確認が必要です。
更地に抵当権を設定してから家を建てたらどうなりますか
民法389条により、抵当権者は土地とともにその建物を競売することができます。ただし優先権は土地の代価についてのみ行使できます。
地上権の地代は誰が決めますか
条文は「当事者の請求により、裁判所が定める」としています。自動的に金額が決まるわけではありません。
抵当権の順位は交渉で変えられますか
民法373条は順位を登記の前後によると定めています。なお同条に続く規定として順位の変更が置かれており、関係者の合意と登記によって変更する制度はあります。
参照した条文
- e-Gov法令検索「民法」第370条・第371条・第373条・第388条・第389条・第392条https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索「民事執行法」第81条・第188条https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004
引用した条文は2026年9月17日にe-Gov法令検索で表示を確認した現行のものです。担保の設計は個別性が高いため、実際の契約にあたっては司法書士・弁護士と取引金融機関に確認してください。










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