根抵当権を設定したあと、「枠をもう少し増やしたい」「使い道を広げたい」という話が出ることがあります。どちらも民法は変更を認めていますが、必要になる手続きがまったく違います。枠(極度額)を触るときは他人の承諾が要り、使い道(債権の範囲)を触るときは要りません。条文で確かめます。
先に結論
- 極度額の変更は、民法398条の5により利害関係を有する者の承諾を得なければすることができません。後順位の抵当権者がいれば、その承諾が要ります。
- 債権の範囲と債務者の変更は、398条の4第2項により後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しません。
- ただし398条の4第3項の期限があります。元本の確定前に登記をしなかったときは、変更をしなかったものとみなされます。
- 元本確定期日は定めることも変更することもできますが、定めた日または変更した日から5年以内でなければなりません(398条の6第3項)。
- 期日の変更を前の期日より前に登記しなかったときは、変更前の期日で元本が確定します(同条4項)。
枠を増やすときだけ、他人の承諾が要る
根抵当権の極度額は、その不動産からどれだけ優先的に回収できるかの上限です。上限が上がれば、後ろに順位を持つ人の取り分は減ります。だから条文は承諾を求めています。

(根抵当権の極度額の変更)第三百九十八条の五 根抵当権の極度額の変更は、利害関係を有する者の承諾を得なければ、することができない。
条文は一文だけです。増額でも減額でも、区別せずに承諾を求めています。ここでいう利害関係を有する者には、後順位の抵当権者のほか、その不動産について権利を持つ人が入ります。誰が該当するかは登記の状況によって変わるため、変更を検討する段階で登記事項証明書を取って確かめるのが順番です。
借りる側にとっての意味は「枠の増額は相手が2人いる交渉になる」ということです。金融機関との話がまとまっても、後順位に別の抵当権者がいれば、その承諾が取れるまで登記できません。増額を前提に資金計画を組むと、承諾が取れなかったときに動けなくなります。
使い道を変えるときは、承諾が要らない
同じ変更でも、担保する債権の範囲や債務者を変えるときは扱いが違います。

1項は、元本の確定前であれば担保すべき債権の範囲を変更でき、債務者の変更も同様だとしています。2項が肝心で、「前項の変更をするには、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない」と明言しています。
理由は枠が動かないことにあります。極度額が同じなら、後順位の人が受け取れる金額の見込みは変わりません。中身が入れ替わるだけなので、外部の同意を要求する必要がない、という整理です。
図1 変更の種類で手続きが分かれる
極度額の変更
398条の5
利害関係を有する者の承諾が必要
元本確定後でも変更できる
債権の範囲の変更
398条の4
第三者の承諾は不要
元本の確定前に限る。確定前に登記が必要
債務者の変更
398条の4
第三者の承諾は不要
元本の確定前に限る。確定前に登記が必要
承諾が要らない代わりに、期限がある
398条の4第3項が落とし穴です。条文はこう書いています。「第一項の変更について元本の確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなす。」
合意しただけでは足りず、元本が確定する前に登記まで終えていなければ、変更はなかったことになります。効力が遡って消えるのではなく、最初から変更していない扱いです。契約書を交わして安心していると、確定日を過ぎた時点で前の内容に戻ってしまいます。
| 変更するもの | 根拠 | 第三者の承諾 | 時期の制限 |
|---|---|---|---|
| 極度額 | 398条の5 | 利害関係を有する者の承諾が必要 | 条文に確定前という限定はない |
| 担保すべき債権の範囲 | 398条の4第1項・2項 | 不要 | 元本の確定前に限る |
| 債務者 | 398条の4第1項・2項 | 不要 | 元本の確定前に限る |
| 元本確定期日 | 398条の6 | 不要(398条の4第2項を準用) | 定めた日・変更した日から5年以内 |
元本確定期日は5年が上限
根抵当権は、いつまでも枠として生き続けるわけではありません。元本確定期日を定めれば、その日に担保する元本が固まります。

3項が「第一項の期日は、これを定め又は変更した日から五年以内でなければならない」と上限を引いています。10年先の日付を書いても認められません。長く使い続けたい枠なら、5年ごとに期日を置き直す運用になります。
4項はさらに厳しい定めです。期日の変更について、変更前の期日より前に登記をしなかったときは、担保すべき元本は変更前の期日に確定します。延長したつもりでも、登記が間に合わなければ元の日で締まるということです。
2項では398条の4第2項が準用され、期日の定めや変更についても第三者の承諾は要らないとされています。承諾が不要な代わりに、登記の期限を守ることが効力の条件になっている構造は、債権の範囲の変更と同じです。
元本が確定したあとにできること、できないこと
元本が確定すると、根抵当権は枠としての性質を失い、その時点の債権を担保する普通の抵当権に近い状態になります。398条の4も398条の6も「元本の確定前」を条件にしているため、確定後はこれらの変更ができません。
一方、極度額の変更を定めた398条の5には、元本の確定前という限定が書かれていません。確定後に極度額を減らす話が出てくるのは、このためです。
関連する仕組みとして398条の7があります。元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は、その債権について根抵当権を行使することができません。元本の確定前に債務者のために弁済をした者も同じです。枠に入っている個々の債権だけを持ち出しても担保は付いてこない、という趣旨です。根抵当権そのものの基本は根抵当権とは?抵当権との違いで整理しています。
登記にかかる費用の考え方
登録免許税法の別表第一(第一号)は、不動産の登記について課税標準と税率を並べています。関係しそうな項目を抜き出すと次のようになります。
| 登記 | 課税標準 | 税率・税額 |
|---|---|---|
| (五)質権若しくは抵当権の設定など | 債権金額、極度金額または不動産工事費用の予算金額 | 千分の四 |
| (八)抵当権の順位の変更の登記 | 抵当権の件数 | 一件につき1,000円 |
| (十四)付記登記、登記事項の変更の登記など((一)〜(十三)に掲げるものを除く) | 不動産の個数 | 一個につき1,000円 |
| (十五)登記の抹消 | 不動産の個数 | 一個につき1,000円 |
債権の範囲の変更や債務者の変更は、別表の(一)から(十三)までに個別の項目がないため、(十四)の登記事項の変更の登記として不動産1個につき1,000円という読み方になります。極度額を増額する場合の扱いは、別表の文言からは一義的に読み取れませんでした。増額分を新たな設定と見るかどうかで金額が大きく変わるため、司法書士に確認してください。
この記事で確認できなかったこと
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 利害関係を有する者の具体的な範囲 | 398条の5は範囲を列挙していない。誰が該当するかは登記の状況による |
| 極度額の増額変更の登録免許税 | 別表第一に極度額の増額という項目がなく、税額を条文から断定できなかった |
| 承諾書の様式 | 民法には定めがない。登記手続上の要件は不動産登記法側の話になる |
| 元本確定期日を定めない場合 | この記事では期日を定めた場合の条文にとどめた |
| 金融機関が変更に応じる基準 | 各社の与信判断であり、公表資料からは確認できなかった |
まとめ
根抵当権の変更は、触る場所によって必要なものが変わります。極度額は後ろに立つ人の取り分に直接響くため、398条の5が利害関係を有する者の承諾を求めます。債権の範囲と債務者は枠を動かさないため、398条の4第2項が承諾を不要としています。
承諾が要らない側には、代わりに時間の制限があります。元本の確定前に登記を終えなければ変更しなかったものとみなされ、元本確定期日も定めた日から5年以内で、変更の登記が前の期日に間に合わなければ前の期日で確定します。
枠を増やしたいのか、使い道を広げたいのか。最初にそこを分けて考えると、誰に何を頼むべきかが決まります。完済後の枠の扱いは根抵当権の抹消はどうする?にまとめました。
この記事で参照した一次情報
- e-Gov法令検索「民法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(第398条の4 根抵当権の被担保債権の範囲及び債務者の変更、第398条の5 根抵当権の極度額の変更、第398条の6 根抵当権の元本確定期日の定め、第398条の7 根抵当権の被担保債権の譲渡等)
- e-Gov法令検索「登録免許税法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035(別表第一 第一号(五)(八)(十四)(十五)の課税標準と税率)
条文は2026年9月26日にe-Gov法令検索で確認しました。条文は改正されることがあります。この記事は制度の説明であり、個別の登記手続についての助言ではありません。実際の手続は司法書士にご相談ください。










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