根抵当権は、借りたり返したりを繰り返しても枠が残るところに使い道があります。その前提が崩れるのが、当事者に相続・合併・会社分割が起きたときです。民法は3つを別々の条文で扱っていて、期限も、何もしなかったときの結果も違います。2026年10月22日にe-Gov法令検索で条文を引き、どこに期限があるのかを整理します。
先に要点
- 相続では、相続開始後に取得する債権(または負担する債務)を担保させるために合意が要る。その合意は相続の開始後6か月以内に登記しないと効かない(民法第398条の8第4項)。
- 登記しなかった場合、担保すべき元本は相続開始の時に確定したものとみなされる。あとから枠を使い直すことはできない。
- 合併は逆向きで、放っておくと枠が引き継がれる。止めたい設定者の側に確定請求が認められていて、期限は合併を知った日から2週間、合併の日から1か月(第398条の9第5項)。
- 会社分割は第398条の10で、合併の第3項から第5項までを準用する。期限の数字は合併と同じになる。
相続は「合意」と「6か月以内の登記」の2段構え
民法第398条の8は、根抵当権者に相続が開始した場合(第1項)と、債務者に相続が開始した場合(第2項)を分けて定めています。どちらも、相続開始の時に存在する債権・債務はそのまま担保されますが、それより後に発生する分については合意が必要です。

| 項 | 場面 | 担保される範囲 |
|---|---|---|
| 第1項 | 根抵当権者について相続が開始した | 相続開始の時に存する債権+相続人と根抵当権設定者との合意で定めた相続人が、相続開始後に取得する債権 |
| 第2項 | 債務者について相続が開始した | 相続開始の時に存する債務+根抵当権者と根抵当権設定者との合意で定めた相続人が、相続開始後に負担する債務 |
| 第3項 | 合意をする場合 | 第398条の4第2項の規定を準用する(後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を要しない) |
| 第4項 | 合意を登記しなかった | 相続の開始後6か月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は相続開始の時に確定したものとみなす |
第3項が準用する第398条の4第2項は、極度額や債権の範囲を変更するときに、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を要しないと定めた規定です。つまり相続の合意についても、第三者の承諾は要りません。要るのは当事者間の合意と、期限内の登記だけです。
第一項及び第二項の合意について相続の開始後六箇月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす。(民法第398条の8第4項)
6か月を過ぎると、枠を使い続ける道はなくなる。
条文は「確定したものとみなす」と書いています。確定しなかったことにする余地は示されていないため、相続が起きたあとも同じ枠で借り入れを続ける予定なら、合意と登記を6か月以内に終わらせる必要があります。相続不動産を担保に入れる手順そのものは相続不動産で担保ローンを検討する手順で扱っています。
合併は放っておくと引き継がれる。止めるのは設定者の確定請求
第398条の9は、相続とは向きが逆です。合併があったときは、合併後存続する法人や合併によって設立された法人が合併後に取得する債権(第1項)・負担する債務(第2項)も、当然に担保されます。登記をしなくても枠は続くということです。
そのうえで第3項が、根抵当権設定者に「担保すべき元本の確定を請求することができる」と定めています。請求があったときは、担保すべき元本は合併の時に確定したものとみなされます(第4項)。

合併があったときの期限
注意点がもう1つあります。第3項のただし書は、第2項の場合(債務者について合併があった場合)で、その債務者が根抵当権設定者であるときは確定請求ができないとしています。自分が借り手でもあり担保提供者でもある場合は、この手段を使えません。
会社分割は合併の規定を準用する
第398条の10は、根抵当権者または債務者を分割をする会社とする分割があったときを定めています。第1項・第2項の構造は合併と同じで、分割をした会社と、分割により設立された会社や権利義務を承継した会社が分割後に取得する債権・負担する債務も担保されます。
第3項は「前条第三項から第五項までの規定は、前二項の場合について準用する」とだけ書いています。つまり確定請求ができること、請求があれば分割の時に確定したとみなされること、2週間・1か月の期限、債務者が設定者である場合の除外が、そのまま当てはまります。
3つを並べて比べる
| 項目 | 相続(398条の8) | 合併(398条の9) | 会社分割(398条の10) |
|---|---|---|---|
| 何もしないと | 6か月で元本が確定する | 枠が引き継がれる | 枠が引き継がれる |
| 枠を続けるために要ること | 合意+6か月以内の登記 | 特になし | 特になし |
| 確定させる手段 | 条文上の確定請求はない | 設定者の確定請求 | 設定者の確定請求(準用) |
| 確定請求の期限 | — | 知った日から2週間/合併の日から1か月 | 知った日から2週間/分割の日から1か月 |
| 確定する時点 | 相続開始の時 | 合併の時 | 分割の時 |
| 第三者の承諾 | 要しない(398条の4第2項を準用) | — | — |
向きが逆になっている点が、この3つを取り違えやすくしています。相続は「動かないと確定する」、合併と会社分割は「動かないと続く」という組み立てです。
確定したあとに何ができるか
元本が確定すると、その後に発生する債権は担保されなくなり、根抵当権は確定した債権を担保する状態になります。確定後は、極度額の減額請求や消滅請求といった手段が使えるようになります。確定事由そのものは第398条の20が列挙しており、確定後の手続きとあわせて根抵当権の元本はいつ確定する?で扱っています。
確定した根抵当権の抹消は、通常の抵当権と同じく登記の問題になります。完済しても枠が残る理由と抹消の考え方は根抵当権の抹消はどうする?で整理しています。
当事者に変動があったときの段取り
相続・合併・会社分割が起きたときの手順
よくある質問
債務者が亡くなったら、根抵当権はすぐ確定しますか
すぐには確定しません。相続開始の時に存する債務は引き続き担保され、相続開始後に相続人が負担する債務については、根抵当権者と根抵当権設定者の合意で定めることができます。その合意を相続の開始後6か月以内に登記しなかったときに、相続開始の時に確定したものとみなされます。
6か月の起算日はいつですか
条文は「相続の開始後六箇月以内」と書いています。起算点は相続の開始であって、相続人が相続を知った日ではありません。
合併のときは登記しなくても枠は続きますか
続きます。第398条の9第1項・第2項は、合併後存続する法人または合併によって設立された法人が合併後に取得する債権・負担する債務も担保すると定めています。止めたい場合に設定者が確定請求をする仕組みです。
確定請求はいつまでにすればよいですか
根抵当権設定者が合併のあったことを知った日から2週間を経過したときはできません。合併の日から1か月を経過したときも同様です。会社分割にもこの規定が準用されます。
自分が借り手で、かつ担保を出している場合はどうなりますか
債務者について合併があった場合で、その債務者が根抵当権設定者であるときは、確定請求ができないと第398条の9第3項ただし書が定めています。会社分割でも同じ扱いになります。
出典
- e-Gov法令検索 民法 — 第398条の8(根抵当権者又は債務者の相続。第1項・第2項の合意、第3項の第398条の4第2項の準用、第4項の6か月以内の登記と相続開始の時の確定みなし)、第398条の9(合併。第3項の確定請求、第4項の合併の時の確定みなし、第5項の2週間・1か月の期限、第3項ただし書の除外)、第398条の10(会社分割。第3項で前条第3項から第5項までを準用)、第398条の20(元本の確定事由)










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