根抵当権の抹消は、抵当権の抹消と同じ手順では終わりません。抵当権は被担保債権を返せば消えますが、根抵当権は一定の範囲の債権をまとめて担保する枠なので、返済して残高がゼロになっても枠そのものは残ります。先に「元本の確定」をさせる必要があります。
元本を確定させる道は民法に用意されています。根抵当権設定者は、設定の時から3年を経過したときは確定を請求でき、請求の時から2週間を経過することによって元本が確定します(民法398条の19第1項)。根抵当権者の側はいつでも請求でき、その場合は請求の時に確定します。
実務では、金融機関との合意で解除して抹消登記に進むほうが早いことが多いものの、応じてもらえないときの拠り所として、極度額の減額請求(398条の21)と消滅請求(398条の22)が条文に置かれています。
返しても枠が残るのが根抵当権
抵当権と根抵当権は、担保する債権の決め方が違います。抵当権は特定の債権を担保するため、その債権が消えれば抵当権も消えます。根抵当権は極度額の範囲で不特定の債権をまとめて担保するので、いま借りていなくても枠として登記に残り続けます。
| 項目 | 抵当権 | 根抵当権 |
|---|---|---|
| 担保する債権 | 特定の債権 | 一定の範囲に属する不特定の債権を極度額まで |
| 完済したとき | 被担保債権が消滅すれば抵当権も消滅する | 残高がゼロでも枠は残る |
| 抹消の前提 | 完済 | 元本の確定と、確定した債務の消滅 |
| 条文に置かれた手段 | — | 元本の確定請求、極度額の減額請求、消滅請求 |
根抵当権そのものの仕組みは根抵当権とは?抵当権との違いを極度額・債権の範囲・元本確定で理解するにまとめています。ここでは「外すとき」に絞って条文を追います。
元本の確定は3つの入口がある

入口1 設定者からの確定請求(398条の19第1項)
根抵当権設定者は、設定の時から3年を経過したときに確定を請求できます。担保すべき元本は、その請求の時から2週間を経過することによって確定します。
入口2 根抵当権者からの確定請求(同条第2項)
根抵当権者はいつでも請求でき、この場合は請求の時に確定します。3年という縛りは設定者側だけに掛かっています。
入口3 条文が列挙する確定事由(398条の20)
競売や担保不動産収益執行の申立てで手続が開始したとき、滞納処分による差押えをしたとき、競売手続の開始や滞納処分による差押えを知った時から2週間を経過したとき、債務者または根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたときです。
第1項と第2項の差が実務で効きます。借り手の側から確定させようとすると、設定から3年が経っていることと、請求から2週間の待ち時間が要ります。一方、根抵当権者はいつでも、しかも請求の時に確定します。
なお、398条の19第3項は「担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは、適用しない」としています。契約で確定期日を決めてある根抵当権では、この請求の仕組みは使いません。期日の到来を待つことになります。
確定事由の効力が消えると、確定しなかったことになる
398条の20第2項は、第1項第3号の競売手続の開始や差押え、第4号の破産手続開始の決定の効力が消滅したときは、担保すべき元本は確定しなかったものとみなすと定めています。ただし、元本が確定したものとしてその根抵当権やこれを目的とする権利を取得した者があるときは、この限りではありません。
差押えが取り下げられた、破産手続開始決定が取り消された、といった場面で、いったん確定したはずの状態が巻き戻ります。
極度額が大きすぎるときの減額請求

| 条文 | 請求できること | 効果 |
|---|---|---|
| 398条の21 (極度額の減額請求) |
極度額を、現に存する債務の額と、以後2年間に生ずべき利息その他の定期金および債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額するよう請求できる | 枠が実態に合う大きさまで縮む |
| 398条の22 (根抵当権の消滅請求) |
現に存する債務の額が極度額を超えるときに、極度額に相当する金額を払い渡し、または供託して消滅を請求できる | 払渡しまたは供託は弁済の効力を有する |
減額請求は、極度額だけが大きく残っている状態を整理する手段です。使えるのは元本の確定後で、確定前には請求できません。計算のしかたは条文が具体的に書いていて、現在の債務額に2年分の利息等を足した額が下限になります。
消滅請求のほうは、他人の債務を担保するためにその根抵当権を設定した者、つまり物上保証人や、抵当不動産について所有権・地上権・永小作権・対抗できる賃借権を取得した第三者が使えます。債務者本人は対象として挙げられていません。物上保証人の立場は物上保証人とは?連帯保証人との違いに整理しています。
抹消までの順番
登記事項証明書で現状を確かめる
乙区に根抵当権が残っているか、極度額と債権の範囲、確定期日の定めがあるかを見ます。読み方は登記事項証明書の読み方にまとめています。
金融機関に解除を相談する
合意で解除してもらえるなら、確定請求を経ずに抹消登記へ進めます。取引が終わっている先なら、ここで解除証書が出ることが多いところです。
応じてもらえないときは確定請求を検討する
設定から3年が経っていれば、設定者から確定を請求できます。請求から2週間で確定します。確定期日の定めがあるときは、この道は使えません。
確定した債務を消す
残っている債務を弁済します。極度額だけが大きい場合は、減額請求という選択肢もあります。
抹消登記を申請する
登記の手続きそのものは抵当権の抹消と同じ流れです。申請書の様式と必要書類は抵当権抹消は自分でできる?法務局の申請書様式3-1・3-2で扱っています。
つまずきやすいところ
| 場面 | 条文上の扱い |
|---|---|
| 残高はゼロだが登記が残っている | 根抵当権は不特定の債権を担保する枠なので、残高ゼロでは消えない。元本の確定が先 |
| 設定から3年経っていない | 設定者からの確定請求は3年経過が要件(398条の19第1項) |
| 確定期日が定められている | 確定請求の規定は適用されない(同条第3項) |
| 極度額が実態より大きい | 元本確定後に減額請求ができる(398条の21) |
| 相続が絡んでいる | 名義や登記の整理が先に要る。相続不動産で担保ローンを検討する手順を参照 |
| 共同担保になっている | 398条の16の登記がされている根抵当権では、減額請求も消滅請求も一個の不動産についてすれば足りる |
最後の行は見落とされやすいところです。複数の不動産に共同根抵当権として登記されている場合、請求は1個の不動産について行えば全体に及びます。不動産の数だけ請求を繰り返す必要はありません。
よくある質問
| 質問 | 条文にもとづく答え |
|---|---|
| 完済したのに登記が消えません | 根抵当権は残高がゼロでも枠として残ります。元本の確定が先に必要です |
| 自分から元本を確定できますか | 設定から3年を経過していれば請求できます。請求から2週間で確定します |
| 根抵当権者はいつ請求できますか | いつでも請求でき、請求の時に確定します |
| 確定期日が決まっている場合は | 確定請求の規定は適用されません |
| 極度額だけ下げられますか | 元本の確定後であれば、現在の債務額に以後2年間の利息等を加えた額への減額を請求できます |
| 物上保証人でも消滅を請求できますか | 現に存する債務の額が極度額を超えるときに、極度額に相当する金額を払い渡すか供託して請求できます |
| 払い渡したお金はどう扱われますか | その払渡しまたは供託は弁済の効力を有するとされています |
| 差押えが取り下げられたら | その効力が消滅したときは、元本は確定しなかったものとみなされます(例外あり) |
根抵当権は、取引が続いている間は使い勝手のよい担保です。一方で、外すときの段取りが抵当権より1段多くなります。取引を終えるときは、解除の相談を先に置くのが実務では早道です。
この記事が参照した一次情報
- e-Gov法令検索「民法」第398条の19(根抵当権の元本の確定請求)・第398条の20(根抵当権の元本の確定事由)(明治二十九年法律第八十九号、令和8年6月24日施行)
- e-Gov法令検索「民法」第398条の21(根抵当権の極度額の減額請求)・第398条の22(根抵当権の消滅請求)(同上)
本記事は条文の整理であり、個別の事案についての法律上の判断を示すものではありません。登記の手続きや請求の可否については、司法書士または弁護士に確認してください。










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