抵当権は、いつまで不動産に付いているのでしょうか。民法396条は「抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない」と定めています。抵当権だけが先に時効で消えることはない、という規定です。一方で、抵当権が担保する範囲には別の制限があります。375条の「最後の二年分」です。どこまで効いて、いつ消えるのかを条文で確認します(2026年9月26日確認)。
先に結論
- 民法396条により、抵当権は債務者と抵当権設定者に対しては、担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しません。
- 裏を返せば、被担保債権が時効で消えれば、抵当権も消えるという関係です。
- 民法397条は、債務者でも抵当権設定者でもない者が取得時効の要件を備えた占有をしたときは、抵当権は消滅すると定めています。
- 民法375条により、利息その他の定期金について抵当権を行使できるのは満期となった最後の2年分だけです。
- ただし書きで、それ以前の定期金も、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時から抵当権を行使できるとされています。
- 遅延損害金にも同じ制限がかかり、利息その他の定期金と通算して2年分を超えることができません。
抵当権だけが先に時効で消えることはない
抵当権の消滅時効について、条文はこう書いています。

民法 第三百九十六条(抵当権の消滅時効)
抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
ポイントは「債務者及び抵当権設定者に対しては」という限定です。この2者との関係では、抵当権は被担保債権と運命をともにします。借りたお金の債権が時効で消えないかぎり、抵当権だけが先に消えることはありません。
| 立場 | 抵当権の消滅時効 |
|---|---|
| 債務者 | 担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない |
| 抵当権設定者 | 同上 |
| 上記以外の者 | 396条は「債務者及び抵当権設定者に対しては」と限定しており、それ以外の者との関係についてはこの条文に定めがない |
抵当権設定者には、債務者本人だけでなく、他人の債務のために自分の不動産を担保に入れた人も含まれます。この立場については物上保証人とは何かをまとめた記事で扱っています。
第三者が時効取得すると抵当権は消える
396条の裏側にあるのが397条です。
民法 第三百九十七条(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
図1 396条と397条の関係
債務者・抵当権設定者との関係では、抵当権は担保する債権と同時でなければ時効消滅しない。
債務者でも抵当権設定者でもない者が、抵当不動産について取得時効に必要な要件を備える占有をしたときは、抵当権は消滅する。
当事者に対しては強く、第三者の時効取得に対しては弱い。抵当権の消滅は、誰との関係かで結論が変わります。
担保として押さえた不動産を放置しておくと、第三者が占有を続けて取得時効の要件を満たすおそれがあります。抵当権者の側から見れば、登記を備えているだけでは足りない場面がある、ということです。
利息に抵当権が及ぶのは最後の2年分
消滅の話と並んで実務的なのが、抵当権がどこまでの金額を担保しているかです。375条がその範囲を定めています。

民法 第三百七十五条(抵当権の被担保債権の範囲)
抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の二年分についてのみ、その抵当権を行使することができる。ただし、それ以前の定期金についても、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時からその抵当権を行使することを妨げない。
2 前項の規定は、抵当権者が債務の不履行によって生じた損害の賠償を請求する権利を有する場合におけるその最後の二年分についても適用する。ただし、利息その他の定期金と通算して二年分を超えることができない。
| 対象 | 抵当権を行使できる範囲 | 例外 |
|---|---|---|
| 利息その他の定期金 | 満期となった最後の2年分のみ | 満期後に特別の登記をすれば、それ以前の分も登記の時から行使可 |
| 債務不履行による損害賠償 | 最後の2年分 | 利息その他の定期金と通算して2年分を超えられない |
| 元本 | 375条は元本についての制限を定めていない | — |
第2項のただし書きが効いてきます。利息で2年分を使ってしまえば、遅延損害金について抵当権を行使できる分は残りません。利息と損害賠償を合わせて2年分が上限という設計です。
この制限は「抵当権を行使できる範囲」の話です。債権そのものが2年分に減るわけではありません。2年分を超える部分は、抵当権による優先弁済の対象から外れるだけで、一般の債権として請求できる余地は残ります。担保からいくら回収できるか、という文脈で読む条文です。
なぜ2年分に制限されているのか
条文には理由が書かれていないため、ここでは条文の構造から読み取れることだけを整理します。
抵当権は、同じ不動産に複数設定できます。順位が後の抵当権者や、その不動産を買った第三取得者にとっては、先順位の抵当権がどこまでの金額を押さえているかが重要です。利息が無制限に積み上がると、登記簿から見える情報だけでは残りの担保価値を計算できなくなります。
375条のただし書きが「満期後に特別の登記をしたとき」を条件にしている点も、この読み方と整合します。登記に出ていれば後から見る人にも分かるため、2年分を超えても行使できるという構造です。順位そのものの扱いは抵当権の順位は変えられるかをまとめた記事で扱っています。
担保余力を見るときに確認する4点
- 先順位の抵当権の債権額。登記簿に記載された債権額が出発点になります。
- 利息の定め。375条により、抵当権が及ぶのは満期となった最後の2年分です。
- 損害金の定め。利息と通算して2年分が上限です。
- 特別の登記の有無。2年分を超える定期金についての登記があれば、行使できる範囲が広がります。
借りる側から見た意味
| 場面 | 関係する条文 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 完済したのに抵当権の登記が残っている | 396条 | 被担保債権が消えれば抵当権も消えるが、登記は自動では消えない。抹消の手続きが別に必要 |
| 2番抵当で追加の借入れを考えている | 375条 | 1番抵当が押さえている利息は最後の2年分が基本。担保余力の見積もりに使える |
| 長期間放置された担保不動産がある | 397条 | 第三者が取得時効の要件を備える占有をすると、抵当権は消滅する |
| 返済が長く滞っている | 375条第2項 | 遅延損害金のうち抵当権で回収できるのは、利息と通算して2年分まで |
とくに1つ目は、不動産担保ローンを完済したあとに起きやすい行き違いです。債権が消えれば抵当権も消えますが、登記簿の記載は残ります。抹消の登記をしないかぎり、売却や新たな担保設定のときに支障が出ます。
この記事で確認できなかったこと
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 被担保債権の消滅時効の期間 | 396条は抵当権と債権の関係を定めるのみ。時効期間は債権の種類による |
| 「特別の登記」の具体的な手続き | 375条第1項ただし書きに登記の可能性が示されているが、手続きの詳細は条文に書かれていない |
| 取得時効の要件 | 397条は「取得時効に必要な要件を具備する占有」とするのみ。要件は別の条文による |
| 根抵当権への適用 | 根抵当権には別の規定があり、この記事では扱っていない |
| 抵当権抹消登記の費用 | この記事では扱っていない |
まとめ
抵当権は、債務者と抵当権設定者との関係では、担保する債権と同時でなければ時効消滅しません(396条)。一方で、債務者でも設定者でもない第三者が取得時効の要件を備える占有をすれば、抵当権は消滅します(397条)。誰との関係かで結論が変わります。
担保として押さえられる金額にも制限があります。利息その他の定期金は満期となった最後の2年分、遅延損害金も利息と通算して2年分まで(375条)。ただし、満期後に特別の登記をすれば、それ以前の分も登記の時から行使できます。
条文は改正されます。実際の取引や紛争にあたっては、e-Gov法令検索で現行の条文を確認したうえで、司法書士や弁護士にご相談ください。この記事は条文の内容を整理したもので、個別の事案についての法的助言ではありません。
この記事で参照した情報
- e-Gov法令検索「民法」(明治二十九年法律第八十九号)第396条・第397条https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(抵当権の消滅時効、抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅)
- e-Gov法令検索「民法」第375条https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(抵当権の被担保債権の範囲。利息その他の定期金の最後の2年分、特別の登記による例外、損害賠償との通算)
2026年9月26日にe-Gov法令検索で条文を確認しました。条文の要旨は当サイトによる整理で、公式の解説ではありません。法令は改正されることがあります。個別の判断は専門家にご確認ください。










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