不動産担保ローンの返済が止まったとき、担保に入れた物件は必ず競売にかけられると思われがちです。実際には、民事執行法が実行の方法を2つ用意しており、どちらにするかは債権者が選びます。もう1つが担保不動産収益執行です。物件を売らずに、そこから生まれる賃料を回収に充てる手続きで、賃貸中の物件を担保にしている場合に効いてきます。2026年11月3日に民事執行法の条文と裁判所の手続案内で、仕組みと費用を確認しました。
2026年11月3日に条文と裁判所の案内で確認できたこと
- 民事執行法第180条は、不動産担保権の実行を「債権者が選択したもの」により行うとし、1号に担保不動産競売、2号に担保不動産収益執行を挙げている
- 収益執行は不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による実行。売却はしない
- 開始決定と同時に管理人が選任される(第94条)。管理人は債務者の占有を解いて自ら占有できる(第96条)
- 申立手数料は担保権1個につき4,000円。ほかに民事執行予納金と差押登記の登録免許税がかかる(裁判所の案内)
- 配当に充てるのは、収益から租税その他の公課と管理人の報酬その他の必要な費用を控除した額(第106条)。見込みが無いときは手続きが取り消される
民事執行法180条は、実行の方法を2つ並べて「債権者が選ぶ」としている
条文の構造を先に押さえます。第180条は「不動産を目的とする担保権(不動産担保権)の実行は、次に掲げる方法であつて債権者が選択したものにより行う」と定め、第1号に担保不動産競売、第2号に担保不動産収益執行を置いています。第2号の定義は「不動産から生ずる収益を被担保債権の弁済に充てる方法による不動産担保権の実行」です。
同じ抵当権でも、実行のしかたで結果が変わる
1号 担保不動産競売
物件を売却し、代金から配当を受ける。所有権が買受人に移り、手続きが終われば関係は切れる。回収は一度で終わる。
2号 担保不動産収益執行
物件は売らない。管理人が賃料などの収益を集め、費用を引いた残りから配当する。所有権は債務者に残ったまま、回収が続く。
第188条は、強制管理に関する規定(前章第2節第1款第3目)を担保不動産収益執行に準用するとしています。つまり手続きの中身は、強制執行である「強制管理」の条文を読むことになります。以下の条番号はその強制管理の規定です。
開始決定で管理人が選ばれ、賃料は管理人に渡る
第93条は、執行裁判所が強制管理の開始決定をし、債権者のために不動産を差し押さえる旨を宣言し、債務者に収益の処分を禁止すると定めています。さらに、債務者が賃貸料の請求権など収益に係る給付を求める権利(給付請求権)を持つときは、給付をする義務を負う者(給付義務者、つまり賃借人)に対し、給付の目的物を管理人に交付すべき旨を命じるとしています。
開始決定は債務者と給付義務者に送達され、給付義務者に対する効力はその送達の時に生じます(第93条3項・4項)。賃借人への送達が効力の起点になる構造です。
| 条 | 定めていること |
|---|---|
| 第180条 | 不動産担保権の実行は債権者が選択した方法による。1号が担保不動産競売、2号が担保不動産収益執行 |
| 第188条 | 強制管理の規定(前章第2節第1款第3目)を担保不動産収益執行に準用する |
| 第93条 | 開始決定で差押えを宣言し、収益の処分を禁止し、給付義務者に目的物を管理人へ交付するよう命じる |
| 第94条 | 開始決定と同時に管理人を選任する。信託会社・銀行その他の法人も管理人になれる |
| 第95条 | 管理人は管理と収益の収取・換価ができる。民法602条の期間を超える賃貸には債務者の同意が要る |
| 第96条 | 管理人は債務者の占有を解いて自ら占有できる。閉鎖した戸を開く必要があれば執行官に援助を求められる |
| 第98条 | 債務者の生活が著しく困窮するときは、申立てにより収益の一部を債務者へ分与できる |
| 第106条 | 配当等に充てる金銭は、分与後の収益から租税その他の公課と管理人の報酬その他の必要な費用を控除したもの |
| 第107条 | 管理人が執行裁判所の定める期間ごとに配当等を実施する |
第93条2項は、対象になる収益を「後に収穫すべき天然果実及び既に弁済期が到来し、又は後に弁済期が到来すべき法定果実」と定義しています。賃料は法定果実にあたります。すでに期限が来ている分も、これから来る分も対象です。
配当されるのは「残った分」。公課と管理人報酬が先に引かれる
収益がそのまま債権者に回るわけではありません。第106条1項は、配当等に充てるべき金銭を、第98条1項の分与をした後の収益またはその換価代金から、不動産に対して課される租税その他の公課および管理人の報酬その他の必要な費用を控除したものとしています。
賃料が債権者に届くまでの4つの段
賃借人が管理人へ支払う
開始決定が給付義務者に送達された時から、賃料は管理人に交付される。債務者は収益を処分できない。
生活費の分与を差し引く
債務者の生活が著しく困窮するときは、申立てにより必要な金銭や収益が分与される(第98条)。
公課と報酬を控除する
不動産に課される租税その他の公課、管理人の報酬その他の必要な費用が引かれる(第106条)。
期間ごとに配当する
管理人が執行裁判所の定める期間ごとに配当等を実施する(第107条)。債権者が1人なら弁済金を交付し、剰余金は債務者へ。
ここが収益執行の限界でもあります。第106条2項は、配当等に充てるべき金銭を生ずる見込みがないときは、執行裁判所は強制管理の手続を取り消さなければならないと定めています。空室が多い、固定資産税と管理費で収益が消える、といった物件では手続き自体が続きません。
逆に言えば、賃料が安定して入る物件ほど収益執行の実益が出ます。賃貸中の不動産を担保に入れている場合、返済が滞ったときに起きうるのは競売だけではない、ということになります。賃貸中の物件を担保にしたときの扱いは賃貸中の不動産を担保に入れるとどうなる?でも扱っています。
申立ての費用は担保権1個につき4,000円。予納金は裁判所ごとに違う
裁判所は手続案内のページで、担保不動産収益執行を「債権者が、債務者が所有している不動産に抵当権などの担保権を有しているときに、担保権の対象である不動産から生ずる収益(賃料等)から債権を回収する手続」と説明しています。申立先は、原則として目的となる不動産の住所地を管轄する地方裁判所です。

| 費目 | 金額・計算 |
|---|---|
| 申立手数料 | 担保権1個につき4,000円(収入印紙) |
| 民事執行予納金 | 各裁判所によって異なる |
| 差押登記の登録免許税 | 確定請求債権額の1,000円未満を切り捨て、これに1000分の4を乗じて100円未満を切り捨てる。算出額が1,000円未満のときは1,000円。確定請求債権額が根抵当権極度額を上回るときは極度額を確定請求債権額として算出 |
| 郵便料 | 連絡用に必要な場合がある。裁判所ごとに異なる |
共同担保の数え方には注記があります。1個の債権の担保として複数の不動産に担保権を設定している場合は、不動産の数にかかわらず担保権は1個と数えるとされています。裁判所は例として、1個の住宅ローン債権の担保として土地と建物に共同担保として抵当権を設定した場合を挙げ、担保権は1個と数えるとしています。
東京地方裁判所の民事第21部(民事執行センター)は、提出書類をより具体的に示しています。申立書、当事者目録、担保権・被担保債権・請求債権目録、物件目録に加えて、給付義務者及び給付請求権の内容目録を各1通綴じて契印することとされています。競売の申立てには無い目録で、誰がいくらの賃料を払っているかを特定する書面です。

よくある質問
Q. 担保不動産収益執行をされると、家は取り上げられますか。
A. 売却はされません。ただし第96条1項により、管理人は不動産について債務者の占有を解いて自ら占有することができます。賃貸物件であれば賃借人はそのまま住み続け、賃料の支払先が管理人に変わります。
Q. 競売と収益執行は、どちらが選ばれますか。
A. 第180条は「債権者が選択したもの」により行うとしています。選ぶのは債権者です。配当に充てる金銭を生ずる見込みがないときは、第106条2項により手続きが取り消されます。
Q. 生活費も全部取られるのですか。
A. 第98条1項は、強制管理により債務者の生活が著しく困窮することとなるときは、執行裁判所が申立てにより、困窮の程度に応じ必要な金銭または収益を債務者に分与すべき旨を管理人に命じることができるとしています。
Q. 管理人は誰がなりますか。
A. 第94条2項は、信託業法第3条または第53条第1項の免許を受けた信託会社、銀行その他の法人が管理人となることができるとしています。選任は開始決定と同時に執行裁判所が行います。
Q. 管理人は勝手に長期の賃貸契約を結べますか。
A. できません。第95条2項は、管理人が民法第602条に定める期間を超えて不動産を賃貸するには、債務者の同意を得なければならないとしています。










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