根抵当権は、設定したあとで別の債権者へ譲り渡すことができます。ただしできるのは元本の確定前に限られ、根抵当権設定者(担保を出した人)の承諾が必要です。民法は譲り方を3つに分けており、分割して譲る場合にはもう一段の承諾まで求めています。普通の抵当権で使える処分の方法が根抵当権では封じられている点も含めて、条文で順に確かめます。
先に要点
- 民法398条の12第1項は、元本の確定前に、設定者の承諾を得て根抵当権を譲り渡せると定めている。
- 同条第2項は、根抵当権を2個に分割して一方だけを譲る「分割譲渡」を認めている。
- 分割譲渡では、その根抵当権を目的とする権利を有する者の承諾も要る(同条第3項)。
- 民法398条の13は、分割しないで共有するかたちで譲る「一部譲渡」を定めている。譲り方は全部で3種類になる。
- 共有者は、それぞれの債権額の割合に応じて弁済を受けるのが原則(民法398条の14第1項)。
- 元本の確定前に使える民法376条1項の処分は、転抵当の1種類だけと定められている(民法398条の11第1項)。
譲れるのは元本の確定前だけ
条文の入口は民法398条の12第1項です。「元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権を譲り渡すことができる」と書かれています。短い一文ですが、条件が2つ入っています。
1つ目が時期です。元本が確定したあとの根抵当権は、担保する債権が特定されるため、普通の抵当権と同じように債権とセットでしか動かせなくなります。確定前だからこそ、債権と切り離して枠そのものを譲る操作が成り立ちます。元本が確定する場面は民法398条の20に並んでおり、確定後にできることは別の記事で扱っています。
2つ目が承諾です。承諾するのは債務者ではなく、根抵当権設定者です。自分の不動産に枠を設定した人にとって、誰がその枠を持っているかは重要な事柄なので、知らないうちに相手が変わることを防いでいます。設定者と債務者が別人である物上保証のかたちでは、ここを取り違えやすい部分です。抵当権者と設定者の役割分担は抵当権者と抵当権設定者は誰かで整理しています。

譲り方は3つ。承諾を取る相手が変わる
民法は譲渡のかたちを3種類に分けて定めています。どれを選ぶかで、承諾を取る相手と、譲渡後の権利関係が変わります。
| かたち | 条文 | 何が起きるか | 承諾が要る相手 |
|---|---|---|---|
| 全部譲渡 | 398条の12第1項 | 根抵当権がまるごと譲受人に移る | 根抵当権設定者 |
| 分割譲渡 | 398条の12第2項・第3項 | 根抵当権を2個に分割し、一方を譲る | 設定者と、その根抵当権を目的とする権利を有する者 |
| 一部譲渡 | 398条の13 | 分割しないで譲り渡し、譲渡人と譲受人が共有する | 根抵当権設定者 |
分割譲渡だけ承諾の相手が増えるのには理由があります。条文は「その根抵当権を目的とする権利は、譲り渡した根抵当権について消滅する」と定めています。その根抵当権に転抵当などを設定している人がいた場合、譲り渡された側の根抵当権についてはその権利が消えてしまうため、消える側の当事者から承諾を取れと求めているわけです。転抵当そのものの仕組みは転抵当とは?で扱っています。
一部譲渡は「半分譲る」ではなく「共有になる」。
民法398条の13は、一部譲渡を「譲渡人が譲受人と根抵当権を共有するため、これを分割しないで譲り渡すこと」と定義しています。枠が2つに割れるのではなく、1つの枠を2人で持つ状態になります。分割譲渡と名前が似ていますが、結果はまったく違います。
共有になったあと、配当はどう分かれるか
一部譲渡をすると根抵当権が共有になります。その後の配当の分け方は民法398条の14第1項が定めています。原則は「根抵当権の共有者は、それぞれその債権額の割合に応じて弁済を受ける」です。枠を半分ずつ持つのではなく、実際に貸している額の比で分かれます。
ただし但書きがあります。「元本の確定前に、これと異なる割合を定め、又はある者が他の者に先立って弁済を受けるべきことを定めたときは、その定めに従う」とされており、当事者の合意で割合を変えたり、優先して回収する順番を決めたりできます。この取り決めも元本の確定前に限られます。
| 配当の原則 | それぞれの債権額の割合に応じて弁済を受ける |
|---|---|
| 別の定めができるか | 元本の確定前なら、異なる割合や優先して弁済を受ける旨を定められる |
| 共有者の持分を譲るとき | 他の共有者の同意を得て、398条の12第1項により譲り渡せる |
3行目が実務では効きます。共有になった根抵当権の一方が自分の権利をさらに誰かへ譲るときは、設定者の承諾に加えて、もう一方の共有者の同意も必要です。関係者が1人増えるたびに、合意を取る相手も増えていきます。
普通の抵当権でできる処分は、根抵当権では使えない
見落とされやすいのが民法398条の11です。第1項は「元本の確定前においては、根抵当権者は、第三百七十六条第一項の規定による根抵当権の処分をすることができない」と定めています。民法376条1項は、抵当権の譲渡・放棄・順位の譲渡・順位の放棄といった処分を認める条文です。
つまり確定前の根抵当権では、順位の譲渡や順位の放棄といった操作ができません。民法398条の11第1項ただし書が確定前に残している処分は、転抵当の1種類だけと規定されています。代わりに用意されているのが、ここまで見てきた398条の12と398条の13です。根抵当権は枠として動くので、普通の抵当権と同じ道具は使わないという整理になっています。
ただし但書きで「その根抵当権を他の債権の担保とすることを妨げない」とされており、転抵当だけは確定前でもできます。376条1項の処分のうち、転抵当だけが生き残っているかたちです。抵当権側の5つの処分との対応は抵当権は譲れる?で比べられます。
| 操作 | 確定前 | 根拠 |
|---|---|---|
| 転抵当 | できる | 398条の11第1項ただし書 |
| 順位の譲渡・順位の放棄 | できない | 398条の11第1項本文 |
| 抵当権の譲渡・放棄(376条1項) | できない | 398条の11第1項本文 |
| 根抵当権の全部譲渡 | できる | 398条の12第1項 |
| 分割譲渡 | できる | 398条の12第2項・第3項 |
| 一部譲渡 | できる | 398条の13 |
会社分割があったときは譲渡とは別の条文が動く
金融機関の再編などで会社分割が起きた場合は、譲渡の条文ではなく民法398条の10が働きます。第1項は、元本の確定前に根抵当権者を分割会社とする分割があったときについて、根抵当権が、分割時に存する債権のほか、分割をした会社や分割により設立された会社などが分割後に取得する債権も担保すると定めています。
第2項は債務者側が分割された場合で、分割時に存する債務に加えて、分割後に負担する債務も担保すると書かれています。当事者が合意して譲り渡すのではなく、法律の効果として担保される範囲が引き継がれる点が、398条の12の譲渡とは違うところです。
手続きの順番を整理する
条文の内容を、実際に動かすときの順番に並べ替えます。
根抵当権を譲り渡すときの手順
元本が確定していないことを確かめる。確定していれば398条の12は使えない。
全部譲渡・分割譲渡・一部譲渡のどれにするかを決める。譲渡後に共有になるかどうかがここで決まる。
根抵当権設定者の承諾を得る。債務者ではなく、担保を出した本人の承諾である。
分割譲渡なら、その根抵当権を目的とする権利を持つ人の承諾も得る。転抵当権者などが該当する。
登記を申請する。申請書の様式と添付情報は法務局が公開している。

登記については、法務局が申請書の様式と記載例を公開しています。登録免許税の税額は登録免許税法の別表で定まりますが、本記事では根抵当権の移転登記の税率を一次情報で確認していません。申請前に法務局の案内で確かめてください。
よくある質問
根抵当権の譲渡に債務者の承諾は要りますか
民法398条の12第1項が求めているのは根抵当権設定者の承諾です。条文に債務者の承諾は書かれていません。設定者と債務者が同じ人であれば結果は同じですが、物上保証のかたちでは相手が変わります。
分割譲渡と一部譲渡はどう違いますか
分割譲渡は根抵当権を2個に分割して一方を譲るもので、民法398条の12第2項が根拠です。一部譲渡は分割せずに譲渡人と譲受人が共有するもので、民法398条の13が根拠です。共有になるかどうかが違います。
元本が確定したあとでも譲れますか
398条の12も398条の13も「元本の確定前においては」という書き出しです。確定後はこれらの条文の対象になりません。
共有になったあと、配当はどう分かれますか
民法398条の14第1項により、それぞれの債権額の割合に応じて弁済を受けるのが原則です。元本の確定前に異なる割合や優先順位を定めた場合は、その定めに従います。
根抵当権に順位の譲渡はできますか
元本の確定前はできません。民法398条の11第1項が、民法376条1項の処分を認めていないためです。ただし転抵当は同項の但書きで認められています。
出典
- e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第398条の12(根抵当権の譲渡) — 元本の確定前に設定者の承諾を得て譲り渡せること、2個に分割して一方を譲れること、分割した場合にその根抵当権を目的とする権利が消滅すること、その権利者の承諾が必要であること
- 同法 第398条の13(根抵当権の一部譲渡) — 一部譲渡の定義(分割しないで譲り渡し共有すること)と、設定者の承諾が必要であること
- 同法 第398条の14(根抵当権の共有) — 債権額の割合に応じて弁済を受ける原則、異なる定めができること、共有者の持分譲渡に他の共有者の同意が必要であること
- 同法 第398条の11(根抵当権の処分)および第398条の10(根抵当権者又は債務者の会社分割) — 確定前に376条1項の処分ができないこと、他の債権の担保とすることは妨げないこと、会社分割があった場合に担保される債権・債務の範囲
- 法務局「不動産登記の申請書様式について」(更新日2026年1月7日) — 登記申請書の様式と記載例、書面申請とオンライン申請の区分










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