不動産を担保に借りるとき、抵当権ではなく「代物弁済の予約」や「停止条件付代物弁済契約」を求められることがあります。登記簿には仮登記が入り、返済が滞ったら不動産の所有権が貸し手へ移る、という組み立てです。字面だけ見ると、払えなくなった瞬間に家や土地をそのまま持っていかれるように読めます。
実際にはそうなりません。1978年に作られた仮登記担保契約に関する法律が、この形の担保に強い制限をかけているためです。所有権が移るまでに2か月の空白があり、物件の値段が借金より高ければ差額を返す義務があり、しかも差額を受け取るまでは取り戻せます。ここでは条文に沿って、どこで止まるのかを確認します。
債権者が清算金の見積額を通知し、その通知が到達した日から2か月を経過しなければ所有権は移りません(2条1項)。
物件の価額が債権等の額を超えるときは、超える分を清算金として支払う義務があります。これに反する債務者に不利な特約は無効です(3条)。
清算金の弁済を受けるまでは、債権等の額を提供して所有権の受戻しを請求できます。期限は清算期間の経過から5年です(11条)。
仮登記担保契約とは何を指すのか
法律の名前になっている「仮登記担保契約」は、1条で定義されています。金銭債務を担保するため、その不履行があるときは債権者に債務者または第三者に属する所有権その他の権利の移転等をすることを目的としてされた代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約その他の契約で、その契約による権利について仮登記または仮登録のできるものをいいます。
要するに、抵当権を設定する代わりに「返せなければ物件そのものを渡す」という約束をして、その約束を仮登記で公示しておく形です。登記簿の甲区に「所有権移転請求権仮登記」や「条件付所有権移転仮登記」と記録されます。

抵当権との根本的な違いは、実行の仕方です。抵当権は競売を通じて換価し、売却代金から優先弁済を受けます。仮登記担保は、競売を経ずに所有権そのものを取得します。手続きが軽いぶん、債務者の保護をどう確保するかが問題になり、それに答えたのがこの法律です。
通知が届いてから2か月は所有権が移らない
2条1項は、契約で所有権を移転するものとされている日以後に、債権者が清算金の見積額(清算金がないと認めるときはその旨)を債務者等に通知し、かつその通知が債務者等に到達した日から2か月を経過しなければ、所有権の移転の効力は生じないと定めています。この2か月が「清算期間」です。
通知の中身も決まっています。2条2項は、清算期間が経過する時の土地等の見積価額と、その時の債権および債務者等が負担すべき費用で債権者が代わって負担したものの額を明らかにしてしなければならない、としています。いくらの物件をいくらの債権に充てるのか、数字を示さない通知は法の要求を満たしません。
「予約を完結する意思を表示した日、停止条件が成就した日その他のその契約において所有権を移転するものとされている日以後に、債権者が次条に規定する清算金の見積額(清算金がないと認めるときは、その旨)をその契約の相手方である債務者又は第三者に通知し、かつ、その通知が債務者等に到達した日から二月を経過しなければ、その所有権の移転の効力は、生じない。」
仮登記担保契約に関する法律 第2条第1項
期限の利益を失ったその日に登記が動く、ということはありません。通知の到達日を起点に2か月あるため、その間に資金を手当てする余地が残ります。どの時点で期限の利益を失うのかは、期限の利益を失うとどうなる?で条文とともに整理しています。
| 通知に明らかにする事項 | 条文の文言 |
|---|---|
| 清算金の見積額 | 清算金がないと認めるときは、その旨(2条1項) |
| 土地等の見積価額 | 清算期間が経過する時の土地等の見積価額(2条2項) |
| 債権等の額 | その時の債権および債務者等が負担すべき費用で債権者が代わって負担したものの額(2条2項) |
| 土地等が2個以上あるとき | 各土地等の所有権の移転によって消滅させようとする債権およびその費用(2条2項) |
通知が到達した時点で後順位の担保権者や利害関係人がいる場合、債権者はこれらの者にも遅滞なく通知しなければなりません(5条)。自分だけに届けば足りる手続きではありません。
差額は返さなければならない
3条1項は、清算期間が経過した時の土地等の価額がその時の債権等の額を超えるときは、その超える額に相当する金銭を債務者等に支払わなければならないと定めています。これが清算金です。
| 状況 | 条文の扱い | 結果 |
|---|---|---|
| 物件の価額>債権等の額 | 3条1項 | 超える額を清算金として債務者等へ支払う |
| 物件の価額<債権等の額 | 9条 | 反対の特約がない限り、債権はその価額の限度で消滅する |
| 清算金を払わない特約 | 3条3項 | 債務者等に不利なものは無効(清算期間経過後のものを除く) |
| 見積額より少ないと主張 | 8条1項 | 債権者は主張できない |
3条2項は、清算金の支払債務と、土地等の所有権移転の登記および引渡しの債務の履行について、民法533条(同時履行の抗弁)の規定を準用するとしています。つまり清算金を受け取っていない段階で、登記と引渡しだけ先に求められる筋合いはありません。
9条も実務では重いところです。物件の価額が債権等の額に満たない場合、反対の特約がない限り、債権はその価額の限度で消滅します。1,000万円の残債に対して800万円の物件を取られたなら、消えるのは800万円分であって、残る200万円は特約次第という読み方になります。
通知した見積額は債権者を縛る
8条1項は、債権者は清算金の額が2条1項の規定により通知した清算金の見積額に満たないことを主張することができない、と定めています。低めの見積りを出しておいて後から「やはりこの額だった」と減らすことはできません。
逆に、担保仮登記の後に登記された先取特権・質権・抵当権を持つ者や後順位の担保仮登記の権利者は、清算金の額が見積額を超えることを主張できません(8条2項)。見積額が上下双方の基準として固定される構造です。
後順位の担保権者には別の保護もあります。4条1項は、担保仮登記の後に登記された先取特権・質権・抵当権を持つ者が、その順位により、債務者等が支払を受けるべき清算金に対して権利を行えるとしています。ただし清算金の払渡し前に差押えをしなければなりません。
仮登記担保契約に関する法律 第4条第1項
清算金を受け取るまでは取り戻せる
11条は受戻権を定めています。債務者等は、清算金の支払の債務の弁済を受けるまでは、債権等の額に相当する金銭を債権者に提供して、土地等の所有権の受戻しを請求することができます。
ただし期限があります。清算期間が経過した時から5年が経過したとき、または第三者が所有権を取得したときは受戻しを請求できません。5年という期間は長く見えますが、第三者へ転売されれば時点にかかわらず終わります。
債務不履行
予約完結や条件成就
契約で所有権を移転するものとされている日が来ます。ここではまだ所有権は動きません。
通知
清算金の見積額の通知(2条)
清算期間経過時の見積価額と債権等の額を明らかにして通知します。後順位の担保権者にも通知が要ります(5条)。
到達から2か月
清算期間
この間は所有権が移りません。後順位の担保権者は弁済期前でも競売を請求できます(12条)。
2か月経過
所有権の移転と清算金の支払
清算金の支払と、登記・引渡しは同時履行の関係に立ちます(3条2項)。
その後5年
受戻権(11条)
清算金の弁済を受けるまでは、債権等の額を提供して受戻しを請求できます。第三者が取得したら終わります。
土地だけに仮登記を入れると法定借地権が生じる
10条は、土地およびその上にある建物が同一の所有者に属する場合において、その土地につき担保仮登記がされたときは、その仮登記に基づく本登記がされる場合につき、その建物の所有を目的として土地の賃貸借がされたものとみなすと定めています。存続期間と借賃は、当事者の請求により裁判所が定めます。
抵当権における法定地上権(民法388条)に対応する仕組みですが、生じるのは地上権ではなく賃貸借である点が違います。土地だけを担保に入れる場合の評価の考え方は土地だけを担保に入れるとどうなる?で整理しています。
競売になったら抵当権とみなされる
担保仮登記が入っている土地等に強制競売や担保権実行としての競売が起きた場合、13条1項は、その担保仮登記の権利者が他の債権者に先立って弁済を受けられるとしています。順位については、担保仮登記に係る権利を抵当権とみなし、担保仮登記がされた時に抵当権設定の登記がされたものとみなします。
| 項目 | 抵当権 | 仮登記担保 |
|---|---|---|
| 登記の形 | 抵当権設定登記(乙区) | 所有権移転請求権などの仮登記(甲区) |
| 実行の方法 | 競売による換価 | 所有権の取得。競売を経ない |
| 実行までの空白 | 競売手続の期間 | 通知の到達から2か月の清算期間 |
| 差額の扱い | 売却代金の剰余を配当 | 清算金として支払う義務 |
| 取り戻し | 売却許可決定の確定まで | 清算金の弁済を受けるまで。5年で消滅 |
| 競売が起きたとき | 順位に従い優先弁済 | 抵当権とみなして順位を決める(13条) |
仮登記だから弱い、という理解は正確ではありません。競売の場面では抵当権と同じ土俵に乗り、仮登記の時点で順位が決まります。
よくある質問
返せなくなったらすぐ家を取られますか
取られません。清算金の見積額の通知が到達した日から2か月を経過しなければ、所有権移転の効力は生じません(2条1項)。
物件の値段のほうが高くても差額は戻りませんか
戻ります。清算期間が経過した時の価額が債権等の額を超えるときは、超える額を清算金として支払う義務があります(3条1項)。これに反する債務者に不利な特約は無効です。
契約書に「清算金は請求しない」と書いてあります
3条3項により、債務者等に不利な特約は無効です。ただし清算期間が経過した後にされたものはこの限りでないとされています。
いったん所有権が移ったら終わりですか
清算金の支払の債務の弁済を受けるまでは、債権等の額に相当する金銭を提供して受戻しを請求できます(11条)。清算期間の経過から5年、または第三者が所有権を取得するまでです。
この記事が参照した一次情報
- 仮登記担保契約に関する法律(昭和五十三年法律第七十八号):第1条、第2条、第3条、第4条、第5条、第8条、第9条、第10条、第11条、第12条、第13条
- 民法(明治二十九年法律第八十九号):第533条(同時履行の抗弁)、第388条(法定地上権)










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