1番抵当権の残高が大きい不動産に、2番・3番で抵当権を設定することがあります。順位が後ろでも登記はできますが、実際に競売を申し立てたとき、裁判所が手続を取り消してしまう場面があります。
根拠は民事執行法第63条です。2026年10月14日にe-Gov法令検索で条文を確認し、どういう条件で取り消されるのか、後順位の抵当権がどこまで実効性を持つのかを整理しました。
配当が回らない見込みなら、裁判所は競売を取り消します。民事執行法第63条第2項は、差押債権者が一定の申出と保証の提供をしないとき「執行裁判所は、差押債権者の申立てに係る強制競売の手続を取り消さなければならない」と定めています。
判定の基準は買受可能価額です。第60条第3項は、買受けの申出の額は「売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額」以上でなければならないとし、この額を買受可能価額と呼んでいます。
優先債権があるかどうかで条件が2つに分かれます。優先債権がない場合は買受可能価額が手続費用の見込額を超えないとき、優先債権がある場合は買受可能価額が手続費用と優先債権の見込額の合計額に満たないときです。
通知を受けてから動ける期間は1週間です。この期間内に申出額を定めた申出と保証の提供をしなければ、手続は取り消されます。
担保不動産競売にも同じ規定が働きます。第188条が不動産執行の規定を担保不動産競売について準用しています。
民事執行法63条が定めている2つの場合
条文は「剰余を生ずる見込みのない場合等の措置」という見出しで、まず裁判所が差押債権者へ通知する場合を2つ挙げています。
| 号 | 前提 | 条件 |
|---|---|---|
| 第1号 | 差押債権者の債権に優先する債権がない | 不動産の買受可能価額が、執行費用のうち共益費用であるもの(手続費用)の見込額を超えないとき |
| 第2号 | 優先債権がある | 不動産の買受可能価額が、手続費用および優先債権の見込額の合計額に満たないとき |
後順位の抵当権者が申し立てる場面は、ほぼ第2号です。先に登記された抵当権が優先債権にあたるため、その残高と手続費用の合計を買受可能価額が下回っていれば、通知の対象になります。
つまり裁判所は、売っても申立人に配当が回らないことが見えている手続を、そのまま進めません。これが「無剰余取消し」と呼ばれる扱いで、第63条第2項は申出と保証の提供がないときに手続を取り消さなければならないと定めています。
買受可能価額は売却基準価額の8割
判定に使う買受可能価額は、評価額そのものではありません。民事執行法第60条は、執行裁判所が評価人の評価に基づいて売却基準価額を定めると規定し、第3項で買受けの申出の額の下限を示しています。
| 用語 | 内容 |
|---|---|
| 売却基準価額 | 執行裁判所が評価人の評価に基づいて定める、不動産の売却の額の基準となるべき価額 |
| 買受可能価額 | 売却基準価額から、その10分の2に相当する額を控除した価額 |
| 手続費用 | 執行費用のうち共益費用であるもの |
| 優先債権 | 差押債権者の債権に優先する債権 |
評価額3,000万円がそのまま売却基準価額になった場合、民事執行法第60条第3項の計算により買受可能価額は2,400万円になります。1番抵当権の残高が2,500万円あるなら、第63条第1項第2号に当たり、手続費用を足すまでもなく通知の対象です。評価額と残高の差だけを見て余力があると考えると、2割の控除分で逆転します。

通知を受けた差押債権者に残された選択
通知が来ても、その場で取消しが確定するわけではありません。第63条第2項は、1週間以内に申出額を定めて申出と保証の提供をすれば手続を続けられる道を残しています。
通知が届いてからの進み方
- 執行裁判所が、第1号または第2号に該当すると認めて差押債権者へ通知する。
- 差押債権者は、通知を受けた日から1週間以内に申出額を定める。優先債権がなければ手続費用の見込額を超える額、優先債権があれば手続費用と優先債権の見込額の合計額以上の額になる。
- 自ら買受人になれる場合は、申出額に達する買受けの申出がないときに自ら申出額で買い受ける旨の申出と、申出額に相当する保証を提供する。
- 期間内に申出と保証の提供がなければ、執行裁判所は手続を取り消さなければならない。
ただし書には2つの例外が置かれています。ひとつは、差押債権者が期間内に第1項各号のいずれにも該当しないことを証明したとき。もうひとつは、第2号に該当する場合で買受可能価額が手続費用の見込額を超えるときに、不動産の売却について優先債権を有する者の同意を得たことを証明したときです。後者からは、買受可能価額で自己の優先債権の全部の弁済を受けられる見込みがある者が除かれています。
後順位の抵当権は、登記できることと実行できることが別です。先順位の残高が大きい不動産では、競売を申し立てても第63条で取り消される可能性があります。
手続を続けるには、自ら申出額で買い受ける申出と、それに相当する保証の提供が必要になります。資金を用意できなければ、取消しを避けられません。
担保不動産競売にも準用される
第63条は強制競売の条文ですが、抵当権の実行として行う担保不動産競売にも働きます。第188条が「前章第二節第一款第二目(第八十一条を除く。)の規定は担保不動産競売について」準用すると定めているためです。
不動産担保ローンで設定した抵当権を実行する場合も、同じ判定を通ります。貸す側が後順位に入ることをためらうのは、担保としての見た目の余力ではなく、この取消し規定があるからです。
先順位の残高が大きい物件では、後順位での借入れそのものが断られやすくなります。
評価額ではなく、買受可能価額から先順位の残高と手続費用を引いた残りが、実質的な担保余力です。
登記の順位が後ろでも、回収できる見込みがなければ競売を申し立てられません。
そのため金利や融資額の条件が、順位によって大きく変わります。
後順位からの申立てで取り消されても、自分の抵当権は残ります。
第63条第2項ただし書の同意を求められる立場にもなります。
後順位で借りる前に確かめること
- 先順位の抵当権の残高を、登記事項証明書の債権額ではなく実際の残高で把握する。登記上の債権額は当初の金額のまま残る。
- 評価額の8割を買受可能価額の目安として置き、そこから先順位の残高を引く。
- 根抵当権が先順位にある場合は、残高ではなく極度額の枠で押さえられている可能性を見る。
- 手続費用の見込額も差し引かれる点を忘れない。第63条は手続費用を必ず足して判定する。
無剰余取消しについてよくある質問
無剰余取消しとは何ですか
競売をしても差押債権者に配当が回らない見込みのときに、執行裁判所が手続を取り消す扱いです。民事執行法第63条が根拠で、見出しは「剰余を生ずる見込みのない場合等の措置」です。第2項は、所定の申出と保証の提供がないとき「取り消さなければならない」と書いています。
どの金額で判定されますか
買受可能価額です。第60条第3項により、売却基準価額から10分の2に相当する額を控除した価額を指します。これが手続費用の見込額(優先債権がある場合は手続費用と優先債権の見込額の合計額)に届かないかどうかで判定されます。
通知が来たら必ず取り消されますか
必ずではありません。通知を受けた日から1週間以内に、申出額を定めた申出と保証の提供をすれば続けられます。また、第1項各号のいずれにも該当しないことを証明した場合や、一定の条件のもとで優先債権を有する者の同意を得たことを証明した場合も、取消しになりません。
抵当権の実行にも適用されますか
されます。第188条が、不動産執行の規定を担保不動産競売について準用すると定めています。強制競売か担保不動産競売かにかかわらず、剰余の見込みがないときの扱いは同じです。
2番抵当で借りるのは無意味ですか
無意味ではありませんが、実行の見通しが先順位の残高に左右されます。買受可能価額から先順位の残高と手続費用を引いた額が実質的な担保余力になるため、評価額に対して余裕があるように見えても、2割の控除で足りなくなることがあります。
登記事項証明書の債権額を見れば判断できますか
できません。登記に記載された債権額は設定時の金額で、返済が進んでも自動では減りません。実際の残高は債権者が発行する残高証明などで確認する必要があります。根抵当権の場合は、残高ではなく極度額の枠で押さえられている点にも注意してください。
この記事で確認した一次情報
e-Gov法令検索 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第60条・第63条・第188条:laws.e-gov.go.jp
競売の進み方は担保不動産競売の期間入札で、順位の考え方は第二抵当権(2番抵当)とはで扱っています。










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