先に要点
- 転抵当とは、抵当権者が自分の抵当権を他の債権の担保に出すこと。根拠は民法第376条第1項の「その抵当権を他の債権の担保とし」という文言で、条文の見出しは「抵当権の処分」。
- 同じ第376条第1項には、転抵当のほかに順位の譲渡と順位の放棄も並ぶ。後ろの2つは「同一の債務者に対する他の債権者の利益のために」行うものと限定されている。
- 複数の処分をしたときの順位は、第376条第2項により抵当権の登記にした付記の前後で決まる。申込みの早さや金額ではない。
- 対抗するには第377条第1項が主たる債務者への通知または承諾を求め、その方法は債権譲渡と同じ第467条による。
- 元本確定前の根抵当権では順位の譲渡・放棄はできないが、他の債権の担保とすること(転抵当)は妨げないと第398条の11ただし書が定めている。
不動産担保ローンの登記簿を見ると、抵当権の下に小さく「付記1号」と入っていることがあります。抵当権者が自分の抵当権をさらに動かした跡です。民法はこれを「抵当権の処分」と呼び、3つの型を1つの条文にまとめています。ここでは条文だけを根拠に、転抵当が何をする仕組みで、順位がどう決まり、誰に通知が要るのかを整理します。
転抵当は「抵当権を他の債権の担保にする」こと
出発点は民法第376条です。条文は次のとおりで、転抵当・順位の譲渡・順位の放棄の3つが1つの文に並んでいます。

文を分けて読むと、前半が転抵当、後半が順位の譲渡と放棄です。ここで効いているのが「同一の債務者に対する他の債権者の利益のために」という限定で、これは後半だけに掛かります。つまり転抵当の相手は、同じ債務者にお金を貸している人である必要がありません。
| 処分の型 | 何をするか | 相手の制限 | 抵当権者が得るもの |
|---|---|---|---|
| 転抵当 | 自分の抵当権を他の債権の担保に出す | 条文上の限定なし | 自分が借りるときの担保になる |
| 順位の譲渡 | 自分の順位を他の債権者に譲る | 同一の債務者に対する他の債権者 | 対価は当事者間で決める |
| 順位の放棄 | 順位の優先を手放し、同順位として扱う | 同一の債務者に対する他の債権者 | 同上 |
表の時点:2026年10月12日。e-Gov法令検索で取得した民法第376条第1項の条文から整理しました(法令改正ID 129AC0000000089_20260624_508AC0000000045)。
不動産担保ローンの文脈で出てくるのは、ほとんどが転抵当です。貸し手が自分の資金を調達するときに、保有している抵当権を担保として差し出す形になります。借り手である設定者から見ると、自分の不動産に付いた抵当権が、知らないうちに別の債権の担保にもなっているという状態です。
順位は「付記の前後」で決まる
抵当権者が複数の相手に処分をすると、受益者どうしの順位が問題になります。第376条第2項の答えは明快です。
2 前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。
民法(明治二十九年法律第八十九号)第376条第2項。e-Gov法令検索のAPIで取得した本文(2026年10月12日に取得)
基準になるのは登記です。元の抵当権の登記に付けられる「付記登記」の前後、つまりどちらが先に登記されたかで順位が決まります。契約書の日付でも、債権額の大きさでもありません。登記簿上で「付記1号」「付記2号」と番号が振られるのはこのためです。
図:登記簿のどこを見れば転抵当が分かるか
乙区の順位番号
抵当権そのものの順位です。1番抵当権・2番抵当権という言い方はここを指します。
順位番号の下の「付記◯号」
その抵当権に対して行われた処分の記録です。転抵当もここに入ります。
付記の番号の前後
第376条第2項が定める順位の基準です。付記1号が付記2号に優先します。
登記の目的の欄
「◯番抵当権転抵当」のように、何の処分かが書かれます。順位譲渡・順位放棄も同じ欄で区別できます。
自分の不動産の登記簿に見慣れない付記が増えていたら、抵当権者の側で何かが動いたということです。設定者が返済の相手を間違えないためにも、ここは読めるようにしておく価値があります。抵当権の順位そのものの考え方は第二抵当権(2番抵当)とは?順位の決まり方と、1番が根抵当権だと枠が極度額で埋まる理由にまとめています。
対抗するには、主たる債務者への通知か承諾が要る
処分は当事者だけで完結しません。第377条第1項は、第467条の規定に従って主たる債務者に通知するか、主たる債務者が承諾しなければ、主たる債務者・保証人・抵当権設定者およびこれらの承継人に対抗できないと定めています。
第三百七十七条 前条の場合には、第四百六十七条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。
2 主たる債務者が前項の規定により通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない。
民法(明治二十九年法律第八十九号)第377条。e-Gov法令検索のAPIで取得した本文(2026年10月12日に取得)
第467条は債権譲渡の対抗要件の条文で、第1項が債務者への通知または債務者の承諾、第2項が債務者以外の第三者に対しては確定日付のある証書によることを求めています。転抵当の通知も同じ形式で行われます。
図:通知を受けた後に設定者が気をつけること
通知か承諾があるまでは、従来どおりでよい
第377条第1項の反対解釈として、通知も承諾もない段階では処分を設定者等に対抗できません。
通知を受けた後の弁済には制約が付く
第377条第2項により、受益者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗できません。つまり元の抵当権者に払っただけでは足りない場合があります。
誰に払えばよいかを書面で確かめる
通知書には処分の相手が書かれます。繰上返済や完済の前に、受益者の承諾の要否を貸し手に確認してください。
抹消のときも受益者が関わる
転抵当が付いたままでは、元の抵当権の抹消に影響します。完済の段取りは早めに相談するほうが安全です。
第377条第2項は、知らずに元の抵当権者へ全額を払ってしまった設定者にとって重い規定です。通知を受けた時点で、返済先と承諾の要否を書面で確認しておくことが実務上の自衛になります。完済後の抹消の手順は抵当権抹消手続きは自分でできる|費用は1物件1,000円、必要書類4点はすべて金融機関から届くを参照してください。
根抵当権では、転抵当だけが例外として残る
根抵当権には別のルールがあります。第398条の11第1項は、元本の確定前においては根抵当権者は第376条第1項の規定による処分をすることができないとしたうえで、ただし書で転抵当だけを外しています。

| 処分 | 抵当権 | 元本確定前の根抵当権 | 条文 |
|---|---|---|---|
| 転抵当 | できる | できる | 376条1項/398条の11第1項ただし書 |
| 順位の譲渡 | できる | できない | 398条の11第1項本文 |
| 順位の放棄 | できる | できない | 398条の11第1項本文 |
| 通知後の弁済の制約(377条2項) | 適用あり | 元本確定前の弁済には適用しない | 398条の11第2項 |
表の時点:2026年10月12日。民法第376条・第377条・第398条の11の条文から整理しました。元本確定後の根抵当権は普通の抵当権に近い扱いになるため、この表は確定前の話です。
最後の行が実務では効きます。根抵当権は元本が確定するまで繰り返し借入れと返済が行われる仕組みなので、弁済のたびに受益者の承諾を求めると枠が回らなくなります。第398条の11第2項は、元本確定前にした弁済について第377条第2項を適用しないと定めて、この問題を外しています。
根抵当権の元本確定については根抵当権の抹消はどうする?完済しても枠が残る理由と、民法398条の19が定める元本確定請求、抵当権と根抵当権の違い全体は根抵当権とは?抵当権との違いを極度額・債権の範囲・元本確定で理解するにまとめています。
よくある質問
転抵当が付くと、借り手に不利になりますか
条文上、設定者の返済義務そのものは変わりません。変わるのは弁済の相手方の扱いで、第377条第2項により通知または承諾の後は、受益者の承諾を得ないでした弁済を受益者に対抗できなくなります。返済先と承諾の要否を確認しておく必要がある、というのが実際的な影響です。
転抵当には設定者の同意が要りますか
第376条第1項は抵当権者ができることとして定めており、設定者の同意を要件にしていません。第377条第1項が求めているのは主たる債務者への通知または主たる債務者の承諾です。
順位の譲渡と順位の放棄は何が違いますか
譲渡は自分の順位を相手に渡して入れ替わる形、放棄は優先する地位を手放して相手と同順位で扱う形です。条文はどちらも「同一の債務者に対する他の債権者の利益のために」行うものとしています。
どちらが先かはどうやって確かめますか
第376条第2項が「抵当権の登記にした付記の前後による」と定めています。登記簿の乙区で、その抵当権に付いた付記の番号を見ることになります。
根抵当権で順位の譲渡ができないのはなぜですか
第398条の11第1項本文が、元本の確定前においては第376条第1項の規定による処分をすることができないと定めているためです。ただし書で、他の債権の担保とすること(転抵当)だけが除かれています。
この記事で参照した条文
- e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」:第376条(抵当権の処分/付記の前後)、第377条(抵当権の処分の対抗要件/通知後の弁済)、第398条の11(根抵当権の処分)、第467条(債権の譲渡の対抗要件)。本文はe-Gov法令検索のAPIで取得(法令改正ID 129AC0000000089_20260624_508AC0000000045)










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