賃貸中の建物を担保にしたら?民法395条の6か月の引渡し猶予と、借地借家法31条で変わる先後関係

競売から引渡しまでの時間を横棒で示し、買受けの時から6か月の猶予期間を強調したアイキャッチ画像
結論から

賃貸中のアパートやテナントビルを不動産担保ローンの担保に入れるとき、避けて通れないのが「競売になったら借りている人はどうなるのか」という論点です。

民法395条1項は、抵当権者に対抗することができない賃貸借で建物を使っている人は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは、建物を買受人に引き渡すことを要しないと定めています。即座に追い出せるわけではありません。

ただし猶予は無条件ではありません。2項は、買受けの時より後に建物を使用した対価について、買受人が相当の期間を定めて1か月分以上の支払を催告し、その期間内に履行がない場合には1項を適用しないとしています。

そもそも「対抗できる賃貸借」なら猶予の話になりません。借地借家法31条は、建物の賃貸借は登記がなくても引渡しがあれば、その後にその建物について物権を取得した者に対して効力を生ずるとしています。抵当権の登記と建物の引渡しのどちらが先かで、扱いが変わります。

民法395条が定める6か月

まず条文です。e-Gov法令検索で公開されている民法(明治二十九年法律第八十九号)の第395条を見ます。

e-Gov法令検索の民法第三百九十五条の条文。抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しないと書かれている画面
出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第395条第1項

抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。(民法395条1項)

条文が挙げる「次に掲げるもの」は2種類です。

猶予の対象になる「抵当建物使用者」(民法395条1項各号)
号 対象
1号 競売手続の開始前から使用または収益をする者
2号 強制管理または担保不動産収益執行の管理人が、競売手続の開始後にした賃貸借により使用または収益をする者

ポイントは、条文が「建物」に限っていることです。土地には395条の猶予がありません。また、6か月の起点は競売の開始でも落札でもなく、買受人の買受けの時です。

どんなときに「対抗できない賃貸借」になるのか

395条が出てくるのは、賃貸借が抵当権者に対抗できない場合に限られます。対抗できるかどうかは、借地借家法31条が決めています。

e-Gov法令検索の借地借家法(平成三年法律第九十号)のページ。目次に第三章 借家、第二節 建物賃貸借の効力(第三十一条―第三十七条)が並んでいる画面
出典:e-Gov法令検索「借地借家法(平成三年法律第九十号)」。第31条は第三章「借家」第二節「建物賃貸借の効力」に置かれている。

建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。(借地借家法31条)

賃借権の登記がなくても、建物の引渡しを受けていれば、その後に所有権や抵当権を取得した人に対して賃貸借の効力を主張できます。逆に言えば、すでに抵当権が登記されている建物にあとから入居した賃借人は、その抵当権者には対抗できません。

先後関係で変わる扱い
順番 賃貸借は抵当権者に 競売後の扱い
建物の引渡し → 抵当権の設定登記 対抗できる 賃貸借はそのまま続く。買受人が新しい貸主になる
抵当権の設定登記 → 建物の引渡し 対抗できない 民法395条の6か月の引渡し猶予の対象になり得る
抵当権者全員の同意とその登記がある賃貸借 同意をした抵当権者に対抗できる(民法387条1項) 賃貸借はそのまま続く

猶予が消える条件は「1か月分以上の対価の不払い」

6か月は自動的に保証されるものではありません。民法395条2項が、猶予が適用されなくなる場合を定めています。

猶予が外れるまでの順番(民法395条2項)

1

対象は買受け後の使用の対価

買受人の買受けの時より後に、その建物を使用したことの対価が対象です。買受け前の未払い賃料の話ではありません。

2

買受人が催告する

買受人が抵当建物使用者に対し、相当の期間を定めて、その1か月分以上の支払の催告をします。

3

その期間内に履行がない

定めた相当の期間内に支払がないときは、1項の規定は適用されません。つまり6か月の猶予は使えなくなります。

建物を使い続けるなら対価を払う必要がある、という構造です。猶予は「ただで6か月住める権利」ではありません。

抵当権者の同意で対抗力を得る道(民法387条)

賃貸借が先に対抗力を持てなかった場合でも、当事者の合意で解決する仕組みがあります。民法387条です。

登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。(民法387条1項)

民法387条が求めている3つの条件
条件 内容
賃貸借の登記 「登記をした賃貸借」であること。引渡しだけでは足りない
先順位の抵当権者全員の同意 賃貸借の登記前に登記をした抵当権を有する「すべての者」の同意が要る
同意の登記 同意があるだけでなく、その同意の登記が必要

さらに2項は、抵当権者がこの同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者、その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならないとしています。転抵当が付いているようなケースでは、その権利者の承諾まで必要になります。

条件が重いため、実務で387条の同意登記まで進む場面は限られます。担保に入れる前の段階で、すでに入居している賃借人がいるか、いつから引渡しを受けているかを確認しておくほうが現実的です。

借りる側・貸す側から見た意味

この条文の並びは、不動産担保ローンの当事者それぞれに違う意味を持ちます。

立場ごとに効いてくること

担保に入れるオーナー

賃貸中の建物を担保にすると、競売になったときに買受人がすぐ使えない可能性が残ります。これが担保としての評価に影響し得ます。

建物を借りている人

引渡しが抵当権の登記より先なら、賃貸借は続きます。あとから入居した場合でも、競売後すぐ退去ではなく、買受けの時から6か月の猶予があります。

買い受ける人

落札すれば即座に明け渡してもらえるとは限りません。6か月の猶予と、対価の催告という手順が条文に書かれています。

担保評価が下がる仕組みは土地と建物の関係でも起きます。土地だけを担保に入れるとどうなる?民法388条の法定地上権、抵当権そのものの性格は抵当権とは?民法369条が定める「占有を移さない担保」で扱っています。

よくある質問

競売になったら借りている人はすぐ出ていくのですか。
抵当権者に対抗できない賃貸借の場合でも、すぐではありません。民法395条1項は、競売における買受人の買受けの時から6か月を経過するまでは、建物を買受人に引き渡すことを要しないと定めています。
6か月はいつから数えますか。
買受人の買受けの時からです。競売手続の開始時点や入札の時点ではありません。
土地を借りている場合も6か月の猶予がありますか。
民法395条は「抵当権の目的である建物」の使用または収益をする者を対象としています。条文上、建物についての規定です。
猶予の間は賃料を払わなくてよいのですか。
払わないと猶予が外れます。民法395条2項は、買受けの時より後の使用の対価について、買受人が相当の期間を定めて1か月分以上の支払を催告し、その期間内に履行がない場合には1項を適用しないとしています。
抵当権より先に住んでいれば影響を受けませんか。
借地借家法31条により、建物の賃貸借は登記がなくても引渡しがあったときは、その後にその建物について物権を取得した者に対して効力を生じます。引渡しが先であれば、その後に登記された抵当権の実行による買受人に対しても賃貸借を主張できることになります。個別の判断は専門家にご確認ください。
あとから賃貸借を優先させることはできますか。
民法387条の手続きがあります。登記をした賃貸借について、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意し、かつその同意の登記があるときは、同意をした抵当権者に対抗できます。ただし同意をするには、抵当権を目的とする権利を有する者など不利益を受けるべき者の承諾も必要です。

出典

  • e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第395条(抵当建物使用者の引渡しの猶予)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(1項の6か月と買受けの時という起点、1号の競売手続の開始前から使用または収益をする者、2号の強制管理または担保不動産収益執行の管理人がした賃貸借、2項の相当の期間を定めた1か月分以上の支払の催告と不履行)
  • e-Gov法令検索「民法」第387条(抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(登記をした賃貸借、賃貸借の登記前に登記をした抵当権を有するすべての者の同意、同意の登記、2項の不利益を受けるべき者の承諾)
  • e-Gov法令検索「借地借家法(平成三年法律第九十号)」第31条(建物賃貸借の対抗力)https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090(登記がなくても建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し効力を生ずること)

条文は2026年9月27日にe-Gov法令検索で確認したものです。引用は該当部分の抜粋です。個別の事案における適用の可否、賃貸借の先後関係の判断、競売手続の進行については、弁護士・司法書士等の専門家にご確認ください。

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