人に貸している建物やアパートを担保に入れるとき、気になるのは2つです。返済が滞ったら、入っている家賃は誰のものになるのか。そして、競売になったら入居者はすぐ出ていかなければならないのか。どちらも民法に答えが書かれています。条文を順に追って、担保に入れる前に押さえておく点を整理します。
抵当権の効力が家賃に及ぶのは、担保する債権について不履行があった後です。平常時の家賃は所有者のものですが、不履行が起きるとその後に生じた果実に効力が及びます(民法371条)。
家賃を直接取り立てる仕組みが物上代位です。民法372条が304条を準用しており、払渡しの前に差押えをすることが条件になります(民法304条第1項ただし書)。
競売になっても、一定の入居者は買受人の買受けの時から6か月は建物を引き渡さなくてよいとされています(民法395条第1項)。ただし使用の対価を払わないと、この猶予は適用されません。
平常時の家賃は担保に取られない
民法371条は短い条文です。抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ、と定めています。裏を返せば、不履行が起きるまでは果実に及びません。果実には、賃貸によって生じる家賃のような法定果実が含まれます。
つまり、返済を約定どおり続けているあいだは、入ってくる家賃をこれまでどおり自分の資金繰りに使えます。担保に入れた時点で家賃が拘束されるわけではありません。

家賃を直接押さえる仕組みが物上代位
不履行が起きた後、抵当権者はどうやって家賃を回収するのか。ここで出てくるのが物上代位です。民法372条は、第296条、第304条及び第351条の規定を抵当権について準用すると定めています。このうち第304条が物上代位の条文です。
第304条第1項の本文は、先取特権はその目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使することができる、としています。賃貸によって受けるべき金銭、つまり家賃が対象に入ります。
ただし同項にはただし書が付いています。払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない、という条件です。家賃が所有者の手に渡ってしまった後では、この方法は使えません。
| 条文 | 定めている内容 | 実務での意味 |
|---|---|---|
| 民法371条 | 不履行があったとき、その後に生じた果実に抵当権の効力が及ぶ | 平常時の家賃は拘束されない |
| 民法372条 | 第296条・第304条・第351条を抵当権に準用 | 抵当権にも物上代位が使える根拠 |
| 民法304条第1項本文 | 賃貸によって債務者が受けるべき金銭にも行使できる | 家賃が対象になる |
| 民法304条第1項ただし書 | 払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない | 受け取られる前に手を打つ必要がある |
| 民法373条 | 数個の抵当権の順位は登記の前後による | 後順位で設定するときの位置づけが決まる |
借りる側から見ると、この構造は「滞納すると家賃収入が止まりうる」ことを意味します。家賃で返済を回している物件では、1回の遅れが次の遅れを呼ぶ形になりやすい。
資金繰りが苦しくなった段階で、家賃が入ってくる前提の計画を立て直す必要があります。返済条件の相談は、滞る前のほうが選択肢が残ります。
入居者は競売後すぐに出ていくのか
ここが入居者にとっても、貸している側にとっても大きな論点です。民法395条第1項は「抵当建物使用者の引渡しの猶予」という見出しで、一定の場合に6か月の猶予を認めています。

対象になるのは、抵当権者に対抗することができない賃貸借によって建物を使用または収益している人のうち、次の2つです。第1号は競売手続の開始前から使用または収益をする者。第2号は、強制管理または担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借によって使用または収益をする者です。
第1号に当たる入居者は、この時点から使用または収益をしている人です。
ここが起算点になります。開札や代金納付の日付と混同しないよう、条文の言葉どおり買受けの時です。
この期間を経過するまでは、建物を買受人に引き渡すことを要しません。
猶予は終わります。引き続き住むには、買受人とのあいだで新たに賃貸借を結ぶ必要があります。
猶予が外れる場合がある
同条第2項が例外を定めています。買受人の買受けの時より後に建物を使用したことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めて1か月分以上の支払を催告し、その期間内に履行がない場合には、第1項の規定を適用しない、という内容です。
6か月は無条件の居座り期間ではありません。使用の対価を払わなければ、催告を経て猶予そのものが失われます。
抵当権に対抗できる賃貸借もある
395条が前提にしているのは「抵当権者に対抗することができない賃貸借」です。では対抗できる場合はあるのか。民法387条第1項が、その道筋を定めています。
登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる、という規定です。さらに第2項で、抵当権者が同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者など、同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならないとされています。
| 場面 | 賃貸借の立場 | 根拠 |
|---|---|---|
| 抵当権の登記より前に対抗要件を備えた賃貸借 | 抵当権者に対抗できる | 登記の前後による |
| 抵当権の登記後だが、全抵当権者の同意+同意の登記がある | 同意した抵当権者に対抗できる | 民法387条第1項 |
| 上記以外(多くの場合はここ) | 対抗できない。競売で終了する | 民法395条の猶予の対象になりうる |
同意の登記まで取るのは、実務では手間のかかる手続きです。一般の賃貸物件では、抵当権の登記が先に入っていることが多く、賃貸借は対抗できない側に立ちます。だからこそ395条の猶予が用意されている、という関係になります。
賃貸中の物件を担保に入れる前に確かめること
条文を踏まえると、事前に確認しておく点が絞られます。
いま設定されている抵当権の登記と、各賃貸借の対抗要件のどちらが先か。
家賃が入金される口座と時期。物上代位は払渡し前の差押えが条件のため、入金の流れが論点になります。
不履行と判断される基準が契約書にどう書かれているか。371条の「不履行があったとき」が起点です。
後順位で設定する場合、登記の前後で順位が決まること(民法373条)。
入居者への説明をどうするか。競売になった場合の扱いは395条が定めています。
担保として差し出す不動産の評価の考え方は、不動産の評価額は4つあるという記事にまとめています。抵当権そのものの位置づけは民法369条から読み解いた記事を、競売を避ける手段については任意売却の流れを整理した記事もあわせて確認してください。
よくある質問
担保に入れたら家賃はすぐ取られますか
取られません。民法371条は、担保する債権について不履行があったときに、その後に生じた果実へ効力が及ぶとしています。
家賃を受け取った後でも差し押さえられますか
民法304条第1項ただし書は、払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならないとしています。受け取られた後の現金に対しては、この方法は使えません。
6か月の起算点はいつですか
民法395条第1項は、競売における買受人の買受けの時からと定めています。
6か月のあいだ家賃は払わなくてよいのですか
払わないと猶予が外れます。第2項は、買受けの時より後の使用の対価について、相当の期間を定めた1か月分以上の支払の催告に応じない場合は第1項を適用しないとしています。
入居者が抵当権者に対抗できることはありますか
あります。民法387条第1項は、登記をした賃貸借について、先に登記をしたすべての抵当権者の同意と、その同意の登記があるときは対抗できるとしています。
店舗や事務所でも6か月の猶予はありますか
条文は「抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者」と書いており、用途で区別していません。建物であることが条件です。
まとめ
賃貸中の不動産を担保に入れるときの論点は、家賃と入居者の2つに整理できます。家賃については、平常時は自由に使え、不履行の後は果実に効力が及び、回収は払渡し前の差押えを条件とする物上代位で行われます。入居者については、抵当権に対抗できない賃貸借であれば競売で終了しますが、買受けの時から6か月の引渡し猶予が置かれ、対価の不払いがあればその猶予も外れます。
いずれも条文に書かれていることです。担保に入れる前に、抵当権の登記と賃貸借の先後、家賃の入金経路、契約書の不履行の定義を確認しておけば、後から想定と食い違う場面を減らせます。
参照した一次情報:e-Gov法令検索「民法」第304条・第371条・第372条・第373条・第387条・第395条(2026年9月18日に表示を確認)










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