不動産担保ローンの返済が止まり、担保にした物件が競売にかけられて落札された。そのあと、住んでいる人はいつまでそこにいられるのか。この答えを決めているのが民事執行法83条の「引渡命令」です。買受人が裁判所へ申し立てれば、訴訟を起こさなくても明渡しを命じる決定が出ます。ただしこの手続きには代金納付の日から6か月という期限があり、建物に賃借人がいた場合だけ9か月に延びます。条文を読みながら、誰に対して出せるのか、いつから数えるのかを整理します。
先に結論
- 引渡命令は、代金を納付した買受人の申立てによって執行裁判所が出す決定です。債務者だけでなく、不動産の占有者に対しても出せます。
- 申立ての期限は代金を納付した日から6か月。買受けの時に民法395条1項の抵当建物使用者が占有していた建物は9か月です。
- 買受人に対抗できる権原で占有している人には出せません。事件の記録からそう認められる場合が条文上の除外です。
- 債務者以外の占有者に対して出すときは、裁判所はその人を審尋しなければなりません。記録上明らかなときと、すでに審尋済みのときだけ例外です。
- 決定は確定しなければ効力を生じません。不服があれば執行抗告ができます。
引渡命令とは何か。条文はこう書いている
民事執行法83条1項は「執行裁判所は、代金を納付した買受人の申立てにより、債務者又は不動産の占有者に対し、不動産を買受人に引き渡すべき旨を命ずることができる」と定めています。続くただし書きで「事件の記録上買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者に対しては、この限りでない」と除外を置いています。
この条文は本来、強制競売の規定として置かれているものです。不動産担保ローンの担保権が実行された場合、つまり担保不動産競売についても、同法188条が前章第二節第一款第二目の規定(81条を除く)を準用すると定めているため、担保不動産競売でも同じ仕組みが働きます。抵当権の実行で競売になったケースでも、引渡命令は使えるということです。

期限は代金納付から6か月。賃借人がいた建物は9か月
83条2項が期限を定めています。「買受人は、代金を納付した日から六月(買受けの時に民法第三百九十五条第一項に規定する抵当建物使用者が占有していた建物の買受人にあつては、九月)を経過したときは、前項の申立てをすることができない」という条文です。
起点は落札した日でも、開札の日でもなく、代金を納付した日です。そこから6か月が原則で、民法395条1項の抵当建物使用者、つまり抵当権者に対抗できない賃貸借でその建物を使っていた人が買受けの時に占有していた場合に限り、9か月になります。民法395条1項は、そうした使用者に対して買受けの時から6か月の引渡し猶予を与えているので、その猶予期間と重ならないように3か月分が上乗せされている形です。
引渡命令をめぐる時間の流れ
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代金納付買受人が代金を納めた日が起点になります。所有権はこの時点で買受人へ移ります。
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申立て買受人が執行裁判所へ引渡命令を申し立てます。債務者以外の占有者が相手なら、裁判所はその人を審尋します。
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決定と確定決定が出ても、確定しなければ効力は生じません。相手は執行抗告で争えます。
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6か月/9か月代金納付から6か月(抵当建物使用者がいた建物は9か月)を過ぎると、申立てそのものができなくなります。
期限を過ぎたらどうなるか。条文は「前項の申立てをすることができない」と書いているだけで、代わりの簡便な手続きは用意されていません。買受人は、通常の訴訟で明渡しを求めることになります。買う側から見れば、落札後に放置すると手間と時間が大きく増える、ということです。
誰に対して出せるのか。3つの条件を条文で分ける
83条は、相手方について2つの線を引いています。1つは1項本文の「債務者又は不動産の占有者」という対象の広さ、もう1つは1項ただし書きの「買受人に対抗することができる権原により占有していると認められる者」という除外です。さらに3項が、債務者以外の占有者に対する審尋を義務づけています。
| 項 | 内容 | 実務での意味 |
|---|---|---|
| 1項 本文 | 代金を納付した買受人の申立てにより、債務者または不動産の占有者に対し、引き渡すべき旨を命じられる | 債務者本人に限らない。実際に住んでいる人が相手になる |
| 1項 ただし書き | 事件の記録上、買受人に対抗できる権原により占有していると認められる者には出せない | 対抗できる賃借権などがあると、この手続きでは追い出せない |
| 2項 | 代金納付の日から6か月(抵当建物使用者が占有していた建物は9か月)を過ぎると申立てできない | 期限を過ぎると訴訟に切り替えるしかない |
| 3項 | 債務者以外の占有者に決定をするときは審尋が必要。記録上明らかなとき、審尋済みのときは不要 | 相手に言い分を述べる機会が与えられる |
| 4項 | 申立てについての裁判に対して執行抗告ができる | 決定が出ても、まだ争う余地がある |
| 5項 | 決定は確定しなければ効力を生じない | 確定するまでは強制執行に進まない |
ここで効いてくるのが1項ただし書きです。「買受人に対抗することができる権原」があるかどうかで結論が分かれます。抵当権の設定より先に対抗要件を備えた賃借権であれば、買受人にも対抗できるため、引渡命令の相手にはなりません。逆に、抵当権設定後の賃貸借であれば対抗できず、民法395条1項の6か月の猶予を受けたうえで明け渡すことになります。
占有者が入れ替わっても効く仕組みがある
引渡命令には抜け穴がありそうに見えます。決定が出る前に占有者が別の人に替われば、その新しい占有者には決定の効力が及ばないのではないか、という点です。これに対応しているのが83条の2「占有移転禁止の保全処分等の効力」です。
83条の2が効力を広げる相手
決定の執行がされたことを知って不動産を占有した者に対して、買受人は引渡命令に基づく強制執行ができます。
決定の執行後に、執行を知らないまま被申立人の占有を承継した者も対象です。
決定の執行後にその不動産を占有した者は、執行がされたことを知って占有したものと推定されます。知らなかったと主張する側が覆す必要があります。
被申立人以外への執行文が付与されたときは、執行文の付与に対する異議の申立てで、対抗できる権原があることなどを理由にできます。
つまり、55条1項3号または77条1項3号の占有移転禁止の保全処分と公示保全処分が先に執行されていれば、あとから入った占有者にも引渡命令の効力が及ぶという構造です。買受人の側から見れば、競売の前段階でこれらの保全処分が取られているかどうかが重要になります。
| 比べる点 | 民法395条1項の引渡し猶予 | 民事執行法83条2項の申立期限 |
|---|---|---|
| 誰のための期間か | 抵当建物使用者(買受人に対抗できない賃貸借で使っていた人) | 買受人 |
| 起点 | 買受けの時 | 代金を納付した日 |
| 長さ | 6か月 | 6か月。抵当建物使用者が占有していた建物は9か月 |
| 過ぎたら何が起きるか | 建物を買受人に引き渡す義務が生じる | 引渡命令の申立てができなくなる |
| 対象 | 建物のみ | 不動産(土地・建物) |
借りる側の視点でまとめると、担保に入れた不動産が競売にかけられた場合、落札後に残された時間は長くありません。代金納付から6か月以内に引渡命令が出れば、確定後は強制執行まで進みます。返済が難しくなった段階で、競売を待つのではなく任意売却やリスケジュールを検討したほうが、住み替えの時間を確保できます。
よくある質問
- 引渡命令は誰が申し立てるのですか。
- 代金を納付した買受人です。条文は「代金を納付した買受人の申立てにより」と定めており、代金の納付が前提になります。
- いつまでに申し立てる必要がありますか。
- 代金を納付した日から6か月です。買受けの時に民法395条1項の抵当建物使用者が占有していた建物については9か月になります。
- 債務者でなくても相手になりますか。
- なります。条文は「債務者又は不動産の占有者に対し」と書いています。ただし債務者以外の占有者に対して決定をする場合、裁判所はその人を審尋しなければなりません。
- 賃借人も出ていかなければなりませんか。
- 買受人に対抗できる権原で占有している人には引渡命令を出せません。対抗できない賃貸借の場合は、民法395条1項により買受けの時から6か月の引渡し猶予を受けたうえで明け渡すことになります。
- 決定が出たらすぐ強制執行されますか。
- されません。83条5項が「第一項の規定による決定は、確定しなければその効力を生じない」と定めています。4項により執行抗告もできます。
- 担保不動産競売でも使えますか。
- 使えます。民事執行法188条が、前章第二節第一款第二目(81条を除く)の規定を担保不動産競売について準用すると定めているためです。
- 期限を過ぎたらどうなりますか。
- 引渡命令の申立てはできなくなります。買受人は通常の訴訟で明渡しを求めることになり、時間と費用が余計にかかります。
この記事で確認した一次情報
- e-Gov法令検索「民事執行法(昭和五十四年法律第四号)」第83条 https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004#Mp-At_83(1項=代金を納付した買受人の申立てにより債務者または不動産の占有者に対し引渡しを命じられる・対抗できる権原による占有者は除く、2項=代金納付の日から6月、抵当建物使用者が占有していた建物は9月、3項=債務者以外の占有者には審尋が必要、4項=執行抗告ができる、5項=決定は確定しなければ効力を生じない)
- e-Gov法令検索「民事執行法」第83条の2 https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004(占有移転禁止の保全処分等の効力。執行を知って占有した者と、知らずに被申立人の占有を承継した者に対して引渡命令に基づく強制執行ができること、執行後の占有者は知って占有したと推定されること、執行文の付与に対する異議で争えること)
- e-Gov法令検索「民事執行法」第188条 https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004(不動産執行の規定の準用。前章第二節第一款第二目〔81条を除く〕の規定を担保不動産競売について準用する)
掲載内容は2026年10月7日にe-Gov法令検索で表示されていた条文によります。条文は改正されます。実際の手続きについては、管轄の執行裁判所の案内と、弁護士など専門家の確認を受けてください。この記事は情報提供であり、法律の助言ではありません。










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