不動産担保ローンの契約書には「抵当権者」「抵当権設定者」「債務者」という3つの言葉が並びます。見慣れないと、どれが自分を指すのか分かりません。民法の条文を読むと、この3つは必ずしも2人の関係ではないことが分かります。
結論:抵当権設定者は債務者とは限らない
民法369条1項は「抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」と定めています。担保を出す人として「債務者」と「第三者」の2つが書かれています。
お金を貸して抵当権を持つ側が抵当権者、不動産を担保として差し出した側が抵当権設定者です。第三者が自分の不動産を他人の債務のために差し出したとき、その人を物上保証人と呼びます。
質権との最大の違いは占有です。抵当権は「占有を移転しないで」(369条1項)なのに対し、質権は「債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる」(344条)と定められています。
抵当権者・抵当権設定者・債務者はどう違うか
3つの言葉は、それぞれ別の役割を指します。多くの不動産担保ローンでは抵当権設定者と債務者が同じ人になりますが、条文の作りとしては別の立場です。
| 呼び方 | 誰のことか | 条文での書かれ方 |
|---|---|---|
| 抵当権者 | お金を貸して抵当権を持つ側。金融機関など | 369条1項の主語。「他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する」 |
| 抵当権設定者 | 不動産を担保として差し出した側。所有者 | 369条1項の「債務者又は第三者」。担保に供した人 |
| 債務者 | お金を借りて返す義務を負う側 | 369条1項に「債務者」として登場。設定者と同じ人のことも、違う人のこともある |
| 物上保証人 | 他人の債務のために自分の不動産を差し出した第三者 | 372条が準用する351条に「他人の債務を担保するため…設定した者」として現れる |
抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
民法第369条(抵当権の内容)/e-Gov法令検索より引用(2026年10月13日取得)
369条2項も見落とされがちです。抵当権の目的になるのは所有権だけではなく、地上権と永小作権も対象にできます。借地の上に建物を持っている場合、その借地権(地上権の形であれば)にも抵当権を設定できるということです。

物上保証人は、払ったあとに債務者へ請求できる
自分は借りていないのに不動産だけ差し出す。この立場が物上保証人です。条文は抵当権の章に直接は置かれておらず、372条が質権の規定である351条を準用する形で定めています。
第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。
民法第372条(留置権等の規定の準用)/e-Gov法令検索より引用(2026年10月13日取得)
他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。
民法第351条(物上保証人の求償権)/e-Gov法令検索より引用(2026年10月13日取得)
この2つを合わせて読むと、抵当権の物上保証人についても同じ結論になります。自分が代わりに弁済したとき、または抵当権が実行されて不動産の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従って債務者へ求償できます。
物上保証人になるときに条文から読めること
保証人と違い、債務そのものを引き受けるわけではない。差し出した不動産を失うところで止まる
弁済したとき、または実行で所有権を失ったときに債務者へ請求できる(372条が準用する351条)
条文が与えるのは請求する権利であって、回収できることではない。債務者に資力がなければ戻らない
質権との違いは「占有を移転するかどうか」
抵当権と質権は、どちらも物を担保にして優先的に弁済を受ける権利です。条文を並べると、違いは1か所に集まります。
| 比べるところ | 抵当権 | 質権 |
|---|---|---|
| 目的物の占有 | 占有を移転しないで担保に供する(369条1項) | 債務者又は第三者から受け取った物を占有する(342条) |
| 効力が生じるとき | 登記で第三者に対抗する(373条は順位を登記の前後と定める) | 債権者に目的物を引き渡すことによって効力を生ずる(344条) |
| 設定者に使わせられるか | 設定者が使い続けられる | 質権者は質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない(345条) |
| 対象になるもの | 不動産のほか地上権・永小作権(369条2項) | 譲り渡すことができない物は目的にできない(343条) |
| 物上保証人の求償 | 372条が351条を準用 | 351条が直接定める |

不動産担保ローンが抵当権を使うのは、ここに理由があります。質権だと344条と345条により、担保に出した不動産を貸主へ引き渡し、借主は使えなくなります。
抵当権なら369条1項のとおり占有は移りません。自宅や事業用の建物を担保に出しても、そのまま住み続け、使い続けられます。
抵当権者が受け取れる範囲は条文で決まっている
抵当権者の優先弁済権は、どこまでも及ぶわけではありません。条文がいくつか枠をはめています。
抵当権の効力を区切っている条文
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産に付加して一体となっている物に及ぶ。設定行為に別段の定めがある場合などは除かれる
担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。不履行の前の賃料などには及ばない
同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その順位は登記の前後による
順位は各抵当権者の合意で変更できる。利害関係を有する者があるときは承諾が要り、変更は登記しなければ効力を生じない
利息その他の定期金は、満期となった最後の2年分についてのみ抵当権を行使できる。それ以前の分は満期後に特別の登記をしたときに限られる
土地に抵当権を設定しても、370条はその土地の上に建っている建物を明文で除いています。土地と建物は別々の不動産として扱われるため、両方を担保にしたいなら両方に設定することになります。
375条の「最後の2年分」も実務で効きます。利息が何年も積み上がっていても、抵当権で優先的に回収できるのは満期となった最後の2年分までです。この条文の読み方は抵当権はいつ消えるかでも扱っています。
登記簿では誰がどこに載るか
抵当権を設定すると、不動産の登記簿の乙区に記録されます。当事者の呼び方は、条文の言葉がそのまま使われます。
| 場面 | お金を貸した側 | 不動産を出した側 |
|---|---|---|
| 民法の条文 | 抵当権者 | 債務者又は第三者(担保に供した者) |
| 抵当権設定契約 | 抵当権者 | 抵当権設定者 |
| 登記簿の記録 | 抵当権者 | 所有者(甲区に記録)。債務者は乙区に併記される |
| 本人が借りている場合 | 金融機関 | 抵当権設定者=債務者(同一人) |
| 親の家を担保にする場合 | 金融機関 | 抵当権設定者=物上保証人、債務者は別人 |
登記簿を見るとき、所有者と債務者が違う名前になっていれば、そこに物上保証人がいるということです。自分が物上保証人になる契約かどうかは、契約書の「債務者」欄が自分の名前かどうかで分かります。
設定にかかる費用は抵当権設定費用、順位が2番以下になる場合は第二抵当権(2番抵当)の記事にまとめています。
よくある質問
| 質問 | 条文に書かれていること |
|---|---|
| 抵当権者とは誰ですか | 民法369条1項の主語で、担保に供された不動産について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を持つ人です。実際には貸し手である金融機関などが当たります |
| 抵当権設定者とは誰ですか | 369条1項が「債務者又は第三者」と書いている、不動産を債務の担保に供した人です。所有者であって、必ずしも借りた本人とは限りません |
| 債務者と設定者が別でもよいのですか | 条文が「債務者又は第三者」と並べているため、別人でも成り立ちます。この第三者が物上保証人です |
| 物上保証人は保証人と同じですか | 違います。372条が準用する351条は、弁済したときや実行で所有権を失ったときに債務者へ求償権を持つと定めています。負担は差し出した不動産の限度です |
| 抵当権と質権はどこが違いますか | 抵当権は「占有を移転しないで」(369条1項)、質権は「債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる」(344条)と定められています |
| 土地に設定すると建物も担保になりますか | 370条は「抵当地の上に存する建物を除き」と書いており、土地の抵当権は建物に及びません |
| 抵当権の順位はどう決まりますか | 373条により登記の前後で決まります。374条で各抵当権者の合意による変更もできますが、登記しなければ効力を生じません |
まとめ
抵当権の当事者は、貸した側の抵当権者と、不動産を差し出した側の抵当権設定者です。民法369条1項が「債務者又は第三者が…担保に供した」と書いているとおり、設定者は借りた本人とは限りません。他人の債務のために自分の不動産を出した第三者が物上保証人です。
物上保証人の求償権は、372条が質権の351条を準用する形で定められています。弁済したとき、または抵当権の実行によって所有権を失ったときに、保証債務に関する規定に従って債務者へ求償できます。負担が及ぶのは差し出した不動産の限度までです。
質権との違いは占有です。抵当権は占有を移さずに設定でき(369条1項)、質権は目的物を引き渡すことで効力が生じます(344条)。不動産担保ローンで自宅や事業用の建物を使い続けられるのは、抵当権がこの形をとっているからです。
出典:e-Gov法令検索 民法(明治二十九年法律第八十九号)第369条・第370条・第371条・第372条・第373条・第374条・第375条・第342条・第343条・第344条・第345条・第351条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(2026年10月13日取得)










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