抵当権が付いた物件の賃借人はどうなる?民法387条の「同意の登記」だけが順番をひっくり返せる

白地に茶色の見出しで、借地借家法31条・民法605条・民法387条の3つの条文カードを並べ、民法387条だけを濃い茶色で強調したアイキャッチ

先に要点

  • 建物の賃借人は、登記がなくても引渡しを受けていれば新しい所有者に賃借権を主張できます(借地借家法31条)。ただしこれは「その後その建物について物権を取得した者」に対する効力です。
  • 先に抵当権が登記されている物件では、あとから入った賃借人は抵当権者と買受人に対抗できません。競売になれば明け渡すことになり、残るのは民法395条の6か月の猶予だけです。
  • これを正面から覆せる唯一の仕組みが民法387条です。登記をした賃貸借について、その登記前に登記をした抵当権者の全員が同意し、かつ同意の登記があるときに限り、同意した抵当権者に対抗できます。
  • 同意には条件があります。抵当権者が同意するには、その抵当権を目的とする権利を有する者など不利益を受けるべき者の承諾が必要です(387条2項)。

賃貸中の物件を担保に入れるとき、あるいは抵当権が付いた物件を借りるとき、気になるのは「競売になったら賃借人はどうなるか」です。結論は登記の先後で決まりますが、例外が1つだけ用意されています。ここでは条文そのものを引いて、どの順番で何が決まるのかを整理します。

賃借権の対抗力には2つの経路がある

まず、賃借人が自分の権利を第三者に主張できる根拠を押さえます。不動産の賃貸借には民法の原則があり、建物にはさらに借地借家法の特則があります。

(不動産賃貸借の対抗力)民法第六百五条

不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

(建物賃貸借の対抗力)借地借家法第三十一条

建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。

出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」および「借地借家法(平成三年法律第九十号)」(2026年10月9日に条文を取得)

e-Gov法令検索の借地借家法のページの画面。建物賃貸借の対抗力の見出しで第三十一条として、建物の賃貸借はその登記がなくても建物の引渡しがあったときはその後その建物について物権を取得した者に対しその効力を生ずる、と表示されている
出典:e-Gov法令検索「借地借家法」第31条(2026年10月9日に表示を確認)。

借地借家法31条のおかげで、建物の賃借人はわざわざ賃借権の登記をしなくても守られます。実務で賃借権の登記がほとんど見られないのはこのためです。ただし条文は「その後その建物について物権を取得した者」と書いています。引渡しを受けた時点より後に権利を取得した人が相手、という意味です。

この「先か後か」を決めるのが登記です。民法177条は、不動産に関する物権の得喪及び変更は登記をしなければ第三者に対抗することができないと定めています。抵当権も物権ですから、抵当権の登記がいつ入ったかが基準になります。

抵当権が先なら、賃借人は買受人に明け渡す

順番を並べると、賃貸中の物件を担保に入れたときの結論は2通りに分かれます。

時間の順番 賃借人は抵当権者・買受人に対抗できるか 競売になったとき
引渡し(または賃借権の登記)→ 抵当権の登記 できる 買受人が賃貸人の地位を引き継ぐ。賃貸借はそのまま続く
抵当権の登記 → 引渡し できない 買受人に明け渡す。民法395条により買受けの時から6か月は引渡しを猶予される
抵当権の登記 → 賃借権の登記 + 387条の同意の登記 同意した抵当権者には対抗できる 同意した抵当権者との関係では賃貸借が維持される

出典:民法177条・387条・395条および借地借家法31条の条文から整理した表です(e-Gov法令検索で2026年10月9日に条文を取得)。個別の事案の結論は事実関係によります。

2行目が、賃貸中の物件に新しく抵当権を設定したあとに入居者を募集した場合です。賃借人は競売の買受人に対して賃借権を主張できず、立ち退くことになります。民法395条の明渡猶予は6か月で、権利が残るわけではありません。この猶予については民法395条の6か月の引渡し猶予で詳しく扱っています。

387条の同意の登記が、唯一の逆転手段

ここで効いてくるのが民法387条です。条文は次のとおりです。

(抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力)民法第三百八十七条

登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。

2 抵当権者が前項の同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。

出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)」第387条(2026年10月9日に条文を取得)

e-Gov法令検索の民法のページの画面。抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力の見出しで第三百八十七条が表示され、続いて第三百八十八条の法定地上権、第三百八十九条の抵当地の上の建物の競売、第三百九十五条の抵当建物使用者の引渡しの猶予が並んでいる
出典:e-Gov法令検索「民法」第387条ほか(2026年10月9日に表示を確認)。

条文を分解すると、満たすべき条件は4つです。どれか1つでも欠けると効きません。

図:387条が効くための4条件

1

賃貸借が登記されていること

条文は「登記をした賃貸借は」で始まります。引渡しだけでは足りず、賃借権の登記が前提です。借地借家法31条で足りる場面とは違います。

2

その登記より前に登記された抵当権者の「すべて」が同意すること

1人でも同意しない抵当権者がいると成立しません。2番抵当・3番抵当まで付いている物件ほど、全員をそろえる難度が上がります。

3

同意の登記があること

同意しただけでは足りず、その同意を登記する必要があります。条文は「かつ、その同意の登記があるときは」と並列で要求しています。

4

不利益を受けるべき者の承諾があること

2項の要件です。抵当権を目的とする権利を有する者、つまり転抵当権者や抵当権の被担保債権の差押債権者などの承諾が要ります。

効果の範囲にも限定があります。条文は「その同意をした抵当権者に対抗することができる」と書いています。同意していない抵当権者には対抗できません。抵当権者が複数いて一部しか同意していない場合、賃借人の立場は同意した相手との関係でしか強くならない、ということです。

誰が得をして、誰が負担するのか

この制度は、賃借人のためだけにあるわけではありません。担保に入れる側と、貸す側それぞれに理由があります。

図:立場ごとの損得

物件を担保に入れる所有者

優良なテナントが「競売で追い出されるなら借りない」と言う場面で、同意の登記があれば契約をまとめやすくなります。賃料収入が安定すれば返済原資も安定します。

賃借人(テナント)

内装に多額を投じる店舗や、設備を据え付ける事業所ほど、途中で明け渡すリスクが重くなります。6か月の猶予では投資を回収できません。

抵当権者(金融機関)

同意すると、競売のときに賃貸借が付いたままの物件を売ることになり、買受価額が下がる可能性があります。だからこそ同意は自動ではなく、交渉事項です。

転抵当権者など

2項の承諾が要る相手です。自分の権利の価値が下がる以上、承諾するかどうかを個別に判断します。

つまり387条は、賃料の安定と担保価値のどちらを取るかを、当事者の合意で決めるための仕組みです。金融機関にとっては担保評価を下げる方向に働くため、常に応じてもらえるものではありません。賃貸中の物件の担保評価がどう決まるかは家賃への物上代位の記事もあわせて確認してください。

担保に入れる前に確かめること

順番を間違えると、あとからは直せません。賃貸中の物件を担保に入れる予定があるなら、先に確認しておく項目があります。

図:賃貸中の物件を担保に入れる前の確認

1

登記事項証明書で抵当権の順位と件数を見る

387条は「すべての」抵当権者の同意を求めます。何番まで付いているかで、交渉の相手の数が決まります。

2

既存の賃借人がいつ引渡しを受けたかを確認する

抵当権の登記より前に引渡しを受けている賃借人は、借地借家法31条で守られます。あらためて387条を使う必要はありません。

3

これから入れる賃借人には順番を説明する

抵当権の登記後に入居する賃借人は、原則として競売の買受人に対抗できません。重要な条件なので、契約前に伝えておくべき事柄です。

4

同意が必要なら、借入の条件交渉と同時に進める

融資実行後に「やはり同意してほしい」と頼んでも、金融機関側に応じる動機はありません。担保評価に関わる話なので、条件を詰める段階で持ち出す必要があります。

なお、この記事で引いた民法のページは2026年10月9日時点で令和8年6月24日施行の版が最新として表示されていました。条文は改正されることがあるため、実際の手続きの前にe-Gov法令検索で最新の内容を確認してください。

よくある質問

民法387条はどんな条文ですか

登記をした賃貸借について、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意し、かつその同意の登記があるときは、同意をした抵当権者に対抗できると定めた規定です。

引渡しを受けていれば抵当権者にも対抗できますか

できません。借地借家法31条の効力は「その後その建物について物権を取得した者」に対するものです。先に抵当権が登記されている場合、賃借人はその抵当権者と競売の買受人には対抗できません。

抵当権者が1人でも同意しないとどうなりますか

387条1項は「すべての者が同意をし」と定めています。全員の同意がそろわなければ、この規定による対抗力は生じません。

同意だけで足りますか

足りません。同意に加えて「その同意の登記」が必要だと条文に並べて書かれています。さらに2項により、抵当権を目的とする権利を有する者など不利益を受けるべき者の承諾も要ります。

賃借権の登記は必要ですか

必要です。387条は「登記をした賃貸借は」と始まります。建物の引渡しだけで済む借地借家法31条の場面とは要件が異なります。

対抗できなかった場合、すぐに出ていくことになりますか

民法395条により、競売の買受けの時から6か月を経過するまでは引き渡す必要がないとされています。ただし猶予であって、賃貸借が続くわけではありません。

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